酒匂隆雄の「為替ランドスケープ」 

朝令暮改外交

2025/04/14

> 無料のFX口座開設でお肉・お米のいずれかゲット!


トランプ大統領の朝令暮改な関税政策が世界市場を揺るがしている。ディールを引き出す手法はディーラーと呼ぶべきだが、市場の紳士協定を無視する彼の取引手法は「Gang deal」そのもの。今週行われる米財務長官と日本の経済財政大臣の会談では通貨問題が焦点となり、両政府とも「円高是正」を望む姿勢が鮮明になっている。

2025年4月14日号

世界中の金融市場が、相変わらず『Tariff man』トランプ大統領の関税に対する気まぐれなコメントに翻弄されている。

その外交姿勢は、正に朝令暮改外交と呼んでも良かろう。

関税を玩具の様に扱ってアメリカにとって都合の良いディールを引き出す手口は『Tariff man』(関税男)と言うよりは、『Deal man』(ディールをする男)と言っても良いが、為替の世界では『Dealer』と呼ぶ。

筆者も昔は、『Dealer』の端くれだった。

為替ディーラーの間では紳士協定みたいなものが有って、決して相手を意図的に陥れようとはしない。

ところがこの俄かディーラーはそんな物は無視して、市場のルールを守らない。

我々は、汚い取り口で取引することを『Gang deal』と言って、その様な汚い取引をするディーラーはボイコットして、市場から追い出そうとしたものだ。

『Dealer』トランプは9日に宣言通りに相互関税を発動したが、ものの半日で相互関税の上乗せ部分について、一部の国・地域に90日間の一時停止を許可すると発表した。

ドル円相場は当初の発動によるリスク・オフの煽りで一時143.99まで急落した後、90日間の一時停止の報道を受けて今度は148.27迄切り返し、何とあっと言う間に4円28銭の急騰を見せた。

その後は、今週17日に開催予定されているトランプ米政権が打ち出したベッセント財務長官と赤沢亮正経済財政・再生相との関税措置を巡る米国との交渉に於いて、通貨問題(Currency issues)も大きな議題となると伝えられて再びドル売り&円買いの動きが強まり、昨年9月以来となる142.06までドルが売り込まれることとなった。

下に先週の始値、終値、高値、安値を挙げ、値動きを比較してみたが、

-ドル円相場は大きく下げた感じが有るが、対ユーロ、対ポンドでの下げ幅から比較すると、大したものではない。
-中国とも、我が国機関投資家とも言われている怒涛の米長期債売りにより、10年債利回りが4.5%近くまで急騰した。
-ドル安、債券安を見たFRB.高官による、FRBは「金融市場の安定化を支援する準備は万全だ。」とのコメントを受けて株価は大きく戻して、トリプル安は免れた。

通貨・銘柄4月7日
終値
4月7日
高値
4月7日
安値
4月11日
終値
始値・終値
比較
高値・安値
比較
ドル円145.46148.27142.06146.56-1.30%4.20%
ユーロドル1.09171.14741.08881.135+4.0%5.10%
ポンドドル1.2831.31441.27081.3072+1.9%3.30%
豪ドルドル0.60030.630.59140.6289+4.8%6.10%
米10年債
利回り
4.202%4.497%4.202%4.497%+0.295%0.295%
日本10年債
利回り
1.110%1.340%1.110%1.270%+0.160%0.23%
NYダウ15,603.2640,608.4537,645.5940,212.71+5.9%7.3%
ナスダック15,603.2617,1234.9715,267.9116,724.46+7.2%10.8%
S&P5005,062.25,456.904,982.775,363.36+5.9%8.7%
日経平均
株価
31,136.5834,609.0031,136.5833,585.58+7.9%10.0%
※注:為替相場以外は何れも当日の終値

『Dealer』トランプの相互関税90日間の一時停止と言う豹変ぶりはこの10年債利回りの急騰を見て、ベッセント財務長官を筆頭とする政権内の穏健派が進言したと言われているが、それについては驚きはしない。

『Dealer』トランプは停止宣言の前に、「Be cool(落ち着きなさい)、今は絶好の買い時だ。」と自分のSNSで呟いて株価の急騰を招いたが、民主党の一部では「インサイダー取引ではないか?」との疑念が起きている。

恐らく株安と債券安(利回り上昇)により、巨額の損失を出した身内のファミリー企業やウォール・ストリートのみならず、我が国と違って401K(退職年金)などで株や債券に投資している一般のアメリカ人からの怨嗟の声が耳に入り、『Dealer』トランプは政権内の穏健派の意見を聞いたのではあるまいか?

筆者は今週の、ベッセント・赤沢会談に非常に注目している。

ベッセント財務長官はヘッジ・ファンド出身で、金融のプロである。

日本にも知人が多く、親日家としても知られている。

「日本は引き続き緊密な同盟国であり、関税、非関税障壁、通貨問題、政府補助金を巡る生産的な取り組みを楽しみにしている。」と述べて、為替も交渉のテーマに据える考えを示したが、さて為替面でどの様な要求をしてくるのであろうか?

筆者の推測はずばり、『円安是正の要求』である。

元々『Dealer』トランプは円安に反対しているし、ベッセント財務長官も最近の円高の動きについて、「強い円は正常」と述べて、歓迎の意を表している。

自民党の小野寺政調会長は日曜日のNHK番組で、為替政策に関連し「円安が物価高の原因になっている。円安是正に向け、円を強くし、日本の企業を強くしていくことが大事。」と述べ、為替政策を巡り、「国力、強い経済、強い財政、そして円の信用を高める。これで初めて王道として、もう少し円高のほうに振れる。それが物価の下落につながる。」との認識を示したが、もうこれは日米両政府ともに円高になる事を望んでいると表明した様なものだ。

週末に発表されたシカゴ・IMMのポジションを見て仰天した。

ドル円相場が前週から2円以上もドル安&円高が進む中、凝りもせずに更に凡そ22億ドルの売り持ちを増やして、凡そ124億ドルの売り持ちを保持している。

日々支払う日米金利差であるスワップ・コストなど意に介しない胆力である。

個人投資家残高

前週4月7日付け比較
+11億ドル+12億ドル+1億ドル
@149.84@146.88-2.96

シカゴ・IMM

前週4月8日付け比較
-102億ドル-124億ドル-22億ドル
@149.96@147.82-2.14

先週のレポートで、米経済諮問委員会委員長のスティーブン・ミラン氏とベッセント財務長官、そしてシカゴ・IMMを含むヘッジ・ファンド・コミュニティーに付いて触れ、「彼らヘッジ・ファンド業界の間でドル安指向の考えが浸透しているからではなかろうか?」と述べたが、益々「此奴ら、何か我々の知らない情報を掴んでいるのではないか?」との疑念と言うよりは、興味が湧く。

そしてその情報が、『Mar-A-Largo Agreement』とは全く異なる、日米両政府による『大幅な円安是正合意』であり、それも20%を超える大幅な為替調整である。

現在の153円から20%の円高となれば122.40となり、中々良いレベルとなる。

円安是正の方法は分からないが、日米共同声明で「ドル円相場の20%程度の円高方向への調整が望ましい。」などと表明すれば、充分であろう。

シカゴ・IMMのドル・ショート&円・ロングのポジションの数百倍にも上るであろう積もり積もった永年の円キャリートレードの巻き戻しが始まると、20 %の為替調整などあっと言う間に終わってしまうであろう。

今週は個人的な意見を述べて大幅なドル安&円高の進行の可能性について述べたが、1985年のプラザ合意の時に休日出勤をして政府の為替調整の動きを手助けした者にとっては、決して荒唐無稽な話ではない。

プラザ合意の時のドル円相場は240円。

1985年末のドル円相場は200円切れ。

そして1988年初には128円と、2年と少しでプラザ合意の時から50%のドル安&円高が進んだ。

少なくとも、ベッセント・赤沢会談が終わる17日迄はドルの買い持ちは甚だ危険と心得る。

今週のレンジはドル円が140.00~144.00でユーロ円が160.00~164.00.

今週のレンジ

今週のテクニカル分析の見立ては、引き続きドルの下落を示唆。

ドル円:140.00~144.00
ユーロ円:160.00~164.00

酒匂隆雄

酒匂隆雄 (さこう・たかお)

酒匂・エフエックス・アドバイザリー 代表
1970年に北海道大学を卒業後、国内外の主要銀行で為替ディーラーとして外国為替業務に従事。
その後1992年に、スイス・ユニオン銀行東京支店にファースト・バイス・プレジデントとして入行。
さらに1998年には、スイス銀行との合併に伴いUBS銀行となった同行の外国為替部長、東京支店長と歴任。
現在は、酒匂・エフエックス・アドバイザリーの代表、日本フォレックスクラブの名誉会員。


> 無料のFX口座開設でお肉・お米のいずれかゲット!


この記事をシェアする

無料会員募集中