酒匂隆雄の為替ランドスケープ 2025年03月10日号
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市場が予想に反して「ドル安&円高」の展開となった背景には、トランプ政権の通貨政策への介入懸念と日本の賃上げ率上昇がある。避難通貨としてのドルに陰りが見える中、今後の相場動向に注目。
ドル安&円高
先週のレポートで、前週の動きをこう述べた。
「米国経済に漂う不透明感を背景にリスク・オフの展開となり、債券が買われて米長期金利が下がる中、為替市場ではHaven currency.=(避難通貨)としてドルと円の両方が買われて、その結果としてドル高=その他通貨安と、円高=クロス円安となり、ドル円相場はドル高が勝って150円を超えることとなった。」
先週は米長期金利(10年債利回り)が上昇する中、ドルは対主要通貨で大きく下げ(主要通貨は上昇)、我が国10年債利回りが1.520%まで上昇して、結果として前週の【ドル高&円高】から逆の【ドル安&円安】ではなく、【ドル安&円高】と言う中々説明の出来ない動きを見せることとなった。
2月28日 | 3月7日 | 変化 | |
米10年債利回り | 4.202% | 4.305% | +0.103% |
日本10年債利回り | 1.370% | 1.520% | +0.150% |
ドル円 | 150.57 | 148.01 | -1.7% |
ユーロドル | 1.0375 | 1.0836 | +4.4% |
ポンドドル | 1.2578 | 1.2922 | +2.7% |
豪ドルドル | 0.6207 | 0.6307 | +1.6% |
相変わらず、金融市場全般がトランプ関税の不確実性に振り回されており、それを嫌気して市場がHaven currency(避難通貨)としてのドルに見切りをつけ始めたとなると、事は重大である。
度重なるECBによる利下げにも拘わらず、市場が年初には対ドルでParity(1ユーロ=1ドル)迄下落すると読んでいたユーロが1.08台まで上昇するとは驚きと言えよう。
トランプ大統領は日本と中国が自国通貨を弱めることで米国が不当に不利な立場に置かれていると指摘して、関税を課す可能性に言及したが、これもドル売り&円買いに拍車を掛けた。
そもそも2月の日米首脳会談で為替相場の議論は、「第1次トランプ政権時と同様に専門家の日米財務相の間で緊密な議論を継続する。」(石破茂首相)としたが、『移り気トランプ』にはその様な常識的な外交スタンスは通用しないみたいである。
これで、懸念していた通りに為替政策にまでトランプ大統領自身が踏み込んでくる可能性が増してきたと言えるが、このトランプ大統領の円安問題視の姿勢は現在の我が国の為替政策にとっては、むしろ打って付けと言えなくもない。
三村財務官は先週初、円安の影響で輸入物価が上昇していることに言及し、「実質賃金の上昇実現という観点において、為替は間違いなく何らかの悪影響を及ぼす。注意すべき点の一つは為替レートの問題だ。」と語り、政府は賃上げ促進策に数多く取り組んでおり、今後も努力を続けるとも語って、自らも円安牽制をしており、加藤財務相も記者会見で「日本は従来から申し上げているように通貨安政策はとっていない。先般の為替介入を見ていただければご理解頂けるのではないか。」と話して、寧ろ円安牽制のトランプ発言を「満更でもない。」と考えているのではないかと思うのは筆者の独断か?
我が国の10年債利回りが急上昇した背景には、連合が2025年春闘の賃上げ要求を平均6.09%と昨年の5.85%を上回る数字を発表した事が有る。
要求が6%を上回ったのは32年ぶりで、これを受けて市場には日銀追加利上げ観測が広がって円買いが進んでおり、トランプ発言とも相まって益々ドル円相場の頭が重い展開が続く。
そんな中、相変わらずシカゴ・IMMは何の躊躇も無く(?)円を買い続けており、3月4日付で過去最大のネットで133,651枚の円の買い持ち(約111億ドルの売り持ち)ポジションを保持ししている。
流石に我が国個人投資家も、3月3日付で前週から約5億ドルポジションを縮小させたものの、依然として8億ドルの買い持ちポジションを保持している。
相変わらず、両者の相場観は片やドル安&円高、そしてもう片方はドル高&円安と真っ二つに分かれている。

個人投資家残高
前週 | 3月3日付け | 比較 |
+13億ドル | +8億ドル | -5億ドル |
@149.73 | @149.49 | -0.24 |
シカゴ・IMM
前週 | 3月4日付け | 比較 |
-80億ドル | -111億ドル | -31億ドル |
@149.01 | @149.82 | +0.81 |

先週、内田日銀副総裁は、「経済物価見通しが実現していけば、政策金利を引き上げ金融緩和の度合いを調整していく。想定利上げペース、特定のペースを念頭に置いていない。長期金利や市場の利上げパスについて言及することは正しくない。」などと述べ、市場は長期金利上昇でこれに応じた。
これは、円高要因。
先週金曜日に発表になった米国2月の雇用統計は失業率が4.1%と前月から悪化、非農業部門雇用者数も前月比+15万1千人と予想を下回ったことから、ドルは一時146.95円まで下落したが、パウエルFRB議長が「不確実性の高まりにもかかわらず、米国経済は良好な状態が続いている。政策金利調整の検討はまだ急ぐ必要はない。」との見解を示したことから、米長期金利の上昇と共にドルは反発し、一時148.20円まで上昇した後に148.01で週を終えた。
このパウエル発言はドル高要因と言えるが、ドルの反発力は弱い。
米国では早くもルビオ国務長官と政府の効率化を進めるイーロン・マスクとの衝突が伝えられるなど、トランプ政権内に亀裂が生じている感じがする。
どうしても、ドルは買いたくない。
ドルが一時的に反発した時はSell on rallies(ドルが上がったら売る)の戦略を取りながら、相変わらず常に突然のドル安&円高の動きに最大の注意を払って行く積りである。
今週のテクニカル分析の見立ては更なる下値を模索。
今週のレンジ
ドル円:145.00~149.00
ユーロ円:157.00~162.00



酒匂隆雄 (さこう・たかお)
酒匂・エフエックス・アドバイザリー 代表
1970年に北海道大学を卒業後、国内外の主要銀行で為替ディーラーとして外国為替業務に従事。
その後1992年に、スイス・ユニオン銀行東京支店にファースト・バイス・プレジデントとして入行。
さらに1998年には、スイス銀行との合併に伴いUBS銀行となった同行の外国為替部長、東京支店長と歴任。
現在は、酒匂・エフエックス・アドバイザリーの代表、日本フォレックスクラブの名誉会員。
公式ブログ:酒匂隆雄が語る「畢生の遊楽三昧」
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