酒匂隆雄の為替ランドスケープ 2025年02月号
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トランプ新大統領の就任後、予想に反して関税発動を見送ったことで、金融市場は意外な展開を見せた。12月末から1月末にかけて、米国10年債利回りの低下を受けてNY株式市場は上昇し、日米金利差の縮小でドル安・円高が進行。しかし、就任翌日にカナダ・メキシコからの輸入品への関税検討を表明し、2月1日から課税を開始。「外国歳入庁」設立を掲げ、強硬な通商政策の姿勢を示している。
“Mar-a-Lago Agreement.=(マー・ア・ラーゴ合意。)
トランプ新大統領は、就任前に“バイデン政権下で発令された全ての大統領令の廃棄を行い、100を超える新たな大統領令を発動する。”と過激な発言をしていたが、就任演説では最大の懸案の一つであった関税発動を見送ったことを受けて就任前の市場予想とは裏腹に、金利は低下し、ドルは対円で下落、そして株価は上昇と言う意外な展開となった。
12月31日と1月31日の終値を比べてみると、米国10年債利回りの低下を受けてニューヨーク株式市場の3指数とも上昇し、又我が国10年債利回りの上昇共相まって、日米金利差が縮小してドル・円相場は大方の予想とは裏腹にドル安&円高が進行した。
市場 | 12月31日 | 1月31日 | 変化 |
---|---|---|---|
ドル・円 | 157.22 | 155.19 | -1.30% |
ユーロ・ドル | 1.0355 | 1.0359 | +0.0% |
ポンド・ドル | 1.2513 | 1.2390 | -1.0% |
豪ドル・ドル | 0.6188 | 0.6209 | +0.3% |
米国10年債利回り | 4.573% | 4.542% | -0.031% |
日本10年債利回り | 1.090% | 1.245% | +0.155% |
ダウ | 42,544.22 | 44,544.66 | +4.7% |
ナスダック | 19,310.79 | 19,627.44 | +1.6% |
S&P. | 5,881.63 | 6,040.53 | +2.7% |
ところが、トランプ大統領は就任後すぐの関税発動は見送ったものの、就任翌日にはカナダとメキシコからの輸入品に25%の関税を2月1日に課すことを検討し、また欧州連合(EU)に関税を課す考えを表明し、先週末のニュースとしてトランプ政権は正式に2月1日からカナダとメキシコへ課税開始と伝えられて、本格的な“トランプ課税政策。”が始まった。
カナダのトルドー首相はこの措置に対して、すかさず“強力かつ迅速な。”報復措置を取ると反発したが、我が国はこれを他山の石として、傍観する訳には行かない。
トランプ大統領は、外国からの関税を徴収する新機関“外国歳入庁。”を設立して、“他の国を豊かにするために米国民に課税するのではなく、米国民を豊かにするために外国に関税と税金を課す。”と述べ、通商協議が不調に終わった場合は、躊躇なく関税を引き上げて貿易戦争に踏み切る可能性を露骨に示しており、これはトランプ氏が得意な、“Deal.=(取引)”と思われ、先ずは理不尽な要求を吹っかけておいて相手の出方を待ち、その後自分に有利な方向へ取引を持って行くと言うやり方である。
したたかと言えば、したたかなやり方ではあるが、まあこれがトランプ流とでも言っておこう。
2月7日にワシントンに於いて、石破首相とトランプ大統領の初の首脳会談が開催されることが明らかになったが、同盟国である日本に対してもその矛先を緩める保証は無い。
この、トランプ大統領の、“何をしでかすか分からない。”と言う漠然とした不安が、実は一番厄介な代物である。
先週、南米コロンビアがアメリカから強制送還された不法移民を乗せた軍用機2機の着陸を拒否したことを受けて、トランプ大統領がコロンビアに対して25%の関税を課し、1週間で税率を50%に引き上げる報復措置を取ると表明した。
当然の様に、コロンビア大統領もその報復措置としてアメリカからの輸入品に対して50%の関税を課すと示唆したが、コロンビアが一転して難民を受け入れると表明するとトランプ大統領は新たな関税措置を撤回した。
腕っぷしの強い駄々っ子が自分の思い通りにならないと、弱い者虐めをするのと全く変わらない。
1月23日~24日に開催された日銀政策決定会合に於いて、“トランプ新政権発足後の市場の安定。”を利上げの条件としていた植田日銀総裁は政策金利を0.25%上げて0.50%としたが、今回の利上げを見送れば、“何をしでかすか分からないトランプ政権。”の元、次回3月の政策決定会合で利上げが出来る保証は無く、植田総裁はさぞかしほっとしたことであろう。
トランプ大統領は先々週開催されたダボス会議にオンラインで参加して、その中で“石油価格機構に原油価格の引き下げを要求する。”と発言し、続けて“金利引下げを要求する。”とも発言したが、トランプ氏は実業家であるので、低金利を望むことは理解出来るが中央銀行を差し置いて、ダボス会議の様な世界経済フォーラムの場であの様な発言するセンスが理解出来ない。
パウエルFRB.議長は勿論、無視を決め込んだのだが面白くは無かろう。
トランプ大統領は金利については言及したが、今の所為替政策に関しては一言も発していない。
America first !=(アメリカが一番!)、Make America Great Again.=(再び、アメリカを偉大な国に!)と声高々と叫ぶからには自国通貨であるドルが減価する事を潔しとしないとも思われるが、ドル高は米国製造業の競争力を削ぎ、輸入を促進させる。
逆にドル安は米国製造業の競争力を強め、輸出を促進させて輸入を減退させる。
となると、恐らくトランプ大統領は基本的にはドル安指向なのではあるまいか?
以前、強い言葉で人民元安と円安について批判したことは、未だ記憶に新しい。
実は、一部の市場参加者の間では、1985年に先進主要五か国(G5.)で意図的にドルの減価を計った“プラザ合意。”に似た様な方式で、ドルの価値を下げる、言い換えれば協調介入でドルを売ると言う話がまことしやかに囁かれている。
その名は、トランプ大統領が所有するフロリダの別荘であるMar-a-Lago.から取った、Mar-a-Lago Agreement.=(マー・ア・ラーゴ合意。)である。
“プラザ合意。”は、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、そして日本の五か国が参加したが、現在ドル高(自国通貨安。)で悲鳴を上げているのは我が国だけで、アメリカ以外の3ヶ国がこのマー・ア・ラーゴ合意なる物に協調する可能性は甚だ低いが、上で述べた様に“何をしでかすか分からない。”トランプ大統領の事、気を付けるに越したことは無かろう。
気を付けるとは、何を意味するか?
突然の、意図的・政策的なドル安誘導(ドル売り介入。)に対して、あるレベルを下切ったらドル売りに参入すると言うオペレーションである。
この様な事が起きれば、恐らく5円以上、いやもっとドル安&円高が進行する可能性が有り、例えば152円を下切ったら執行されるストップ・ロス・オーダー(実勢レートよりも下のレートに売り注文を出す。)を注文しておくのである。
協調介入が有ればドルは大きく下げるので、その動きに乗ろうとする、ある意味、保険の様な物とも言える。
このマー・ア・ラーゴ合意、全くの荒唐無稽の代物ではない事は事実であり、頭の片隅に置いておいて頂ければ良かろうか?
現在、ドル円相場は154円~156円近辺で推移しているが、ドル円相場と極めて相関関係の高い動きをする日米10年債の金利差の動きと比べてみると、まあ納得の行く動きと言えようか?
(Let’s Gold.のホーム・ぺージから参照。)
トランプ大統領が強権を発して意図的に、何時かこの均衡を打ち破る日が来るのか?
現時点では、誰も分からない..
投機筋の雄であるシカゴ・IMM.も直近のドル円相場の動きに対しては自信が無いらしく(?)、珍しく極端にポジションを縮めており、そのポジションは1月28日付で僅かネット959枚の円の売り持ち(ドル換算で約8億ドルの買い持ち。)に留まっている。
同じく我が国個人投資家も1月27日付で約4億ドルの少額の買い持ちとなっており、リスクを取ることに逡巡している様に見受けられる。
嵐の前の静けさか?
酒匂隆雄 (さこう・たかお)
酒匂・エフエックス・アドバイザリー 代表
1970年に北海道大学を卒業後、国内外の主要銀行で為替ディーラーとして外国為替業務に従事。
その後1992年に、スイス・ユニオン銀行東京支店にファースト・バイス・プレジデントとして入行。
さらに1998年には、スイス銀行との合併に伴いUBS銀行となった同行の外国為替部長、東京支店長と歴任。
現在は、酒匂・エフエックス・アドバイザリーの代表、日本フォレックスクラブの名誉会員。
公式ブログ:酒匂隆雄が語る「畢生の遊楽三昧」
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