酒匂隆雄の「為替ランドスケープ」 

酒匂隆雄の為替ランドスケープ 2024年10月号

2024/10/01

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9月のドル円相場は147.19円から139.58円の間で7円61銭の値幅を記録し、重要イベントの前後で激しい値動きを見せた。FOMCと日銀政策決定会合、そして自民党総裁選挙が市場に大きな影響を与え、特に石破氏の総裁選勝利は予想外の展開をもたらした。米10年債利回りとの相関が強まる中、今後の日米金利差縮小の動きが注目される。シカゴ・IMMと日本の個人投資家のポジションが対照的な状況下のなか、10月の相場動向に注目が集まっている。

9月のドル円相場の値幅は、高値147.19、安値139.58で値幅は7円61銭。

相当な値幅ではあるが、7月の高値161.94、安値149.60.で値幅12円34銭、そして8月の高値150.88、安値141.66で値幅9円22銭に比べれば多少落ち着いてきた感じがするが、イベント後の値動きが激しくて難しい月であったと言えよう。

先月は米国の金融政策を決定するFOMC(連邦公開市場委員会。)と我が国の金融政策を決定する日銀政策決定会合、そして自民党総裁選挙などの重要なイベントが終わったが、市場はこれらのイベント前の期待や思惑、そしてイベント後の反応に大きく翻弄された。

先ずFOMC.に関して、市場は4年半ぶりの利下げとなる今回は0.25%の小幅のものとなるであろうと予想していたが、直前になってFEDウォッチャーとして知られるウォール・ストリート紙のニック・ティムラス記者がFRBが9月の利下げ幅に関し0.25%なのか、それとも0.50%を決めかねていると報じ、0.50%の大幅利下げとなる可能性に言及したことにより、長期金利が下落してドル円相場も143円台から140.29まで急落することとなった。

FOMCに於いてはニック・ティムラス記者の予想通りに0.50%の利上げが行われたが、FOMC後の記者会見でパウエルFRB議長が、“今回の決定を受けて、これが新しいペースだと捉えるべきではない。”と釘を刺したことや、FF金利予測(ドットチャート)については、2024年末は5.1%(前回4.6%)、2025年末は3.9%(前回3.4%)へ上方修正されて、今回の様な大幅利下げの継続が既定路線ではないと市場がとらえたことで、急速にドルの買い戻しが起きて一時139.58と言う1年2ヶ月ぶりの安値を付けたドル円相場は144.50迄戻すこととなった。

日銀政策決定会合では市場予想通り政策金利は据え置かれ、植田日銀総裁が会合後の記者会見で“経済・物価見通しが実現していけば政策金利を引き上げ、金融緩和度合いを調整していくことになる。”と述べた一方、“現状ではすぐ利上げとはならない。”とも発言して利上げを急がないややハト派寄りの姿勢を示したこともドル円上昇の助けとなったと言えなくもない。

FOMC、日銀政策決定会合共に大方市場予想通りの結果であり、両会合の結果が週の安値139.58、高値144.50の凡そ5円の値幅を演じる程の事でもないと思うのだが、為替市場では“Buy on rumor, sell on fact.=噂で買って、事実で売れ。”と言う格言めいた物が有り、これは、“兎に角、事が起こる前に儲かりそうなものを仕入れて、事が起きたらそれを売って利食え。”と言うことである。

今回のFOMCを控えてドル円相場が下げる可能性が高いので、“Sell USD/JPY on FOMC, buy after it.=FOMCの前にドル円を売って、終わったら買い戻せ。”が起きたのかも知れない。

これが先ず最初の波乱であったが、程なく次の波乱が来るとは予想だにしなかった。

それは先週金曜日に行われた自民党総裁選前後の大混乱のことである。

ドル円相場は、前週に終了したFOMCがLess Dovish.(思ったよりハト派的ではない。=利下げに積極的ではない。)ととられ、日銀政策決定会合がLess Hawkish(思ったよりタカ派的ではない。=利上げに積極的ではない。)ととられてじり高となり144円台で堅調に推移していたが、総裁選の一回目の投票でアベノミクスの踏襲を公言し、日銀の利上げに対して批判的であった高市氏が党員票でも国会議員票でも1位を確保して、市場は高市氏の当選を確信して株買い&円売りに走り、日経平均株価は総裁選当日の午後3時の終値で前日比+903.93円となる39,829.56円で引け、ドル円相場も146.50の高値を付けた。

ところが一回目の投票で誰も過半数を獲得出来なかった為に15時過ぎから行われた、高市氏と石破氏による決戦投票で石破氏が逆転勝利を飾って、株高とドル高&円安となっていた株式・為替市場は様変わりの動きとなり、先物市場で日経平均株価は一気に2,400円も下げて37,440円台となり、ドル円相場も4円以上下げて142円台へ突入と言う大荒れの展開となった。

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(9月27日、ドル円相場60分ローソク足チャート。)

正直言って、総裁選の結果が金融市場にこれ程のインパクトを与えるとは考えてもいなかったが、石破氏の当選により株安&円高が進んだと言うより、高市氏当選を期待して買い上げられた株とドル円が、石破氏の逆転勝利により巻き戻されたと考えた方が良かろう。

新総裁となった石破氏は金融政策に関しては岸田路線を踏襲するものと思われ、日銀の独立性を認めると同時に、

“金融緩和という基本的政策を変えないなかで徐々に金利のある世界を実現していくのは正しい政策だ。”と日銀の利上げを容認しており、また、適正な為替水準については“常識的にドル円相場は110円から140円と言われている。”とも述べている。

まあ結果的には、(個人的な好き嫌いは兎も角..)、石破新総裁誕生は“真っ当な物。”と捉えて良いのではなかろうか?

石破新総裁はこれから徐々に新たな政策を打ち出してくると思われるが、自分が新総裁に選ばれたことで円高は兎も角、大きく株安が進んだことを愉快に思ってはいまい。

石破氏は一時物議を醸した金融所得課税案については沈黙を保っているが、10月中の解散総選挙をすでに宣言しており、株価下落中での選挙は考えられないことから、今まで主張してきた政策の手直しは必至であろう。

となれば、石破ショックも短命に終わる可能性が高いと考える。

ドル円相場は6月に161.94の高値を付け、9月に139.58の安値を付けて、この3ヶ月の間に22円36銭も動くと言う大相場を演じたが、下のドル円相場(青い線)と米10年債利回り(赤い線)のチャートを見ても、ここ2ヶ月は概ね米10年債利回りの動きに強い相関関係を見せている事が分かる。

当面は米10年債利回りの動きに留意しながら140円~145円のレンジを意識したいが、これから起きる日米金利差縮小(FRB.による利下げと日銀による利上げ。)の動きから判断するに、中長期的なドル安&円高のトレンドは変わらないのではなかろうか?

ところで市場のポジションを表すのによく比較される投機の雄、シカゴ・IMMと我が国個人投資家のポジションが好対照となっている。

先ず順張り(トレンドに従って相場が下がれば売り、上がれば買う手法。)を得意とするシカゴ・IMMであるが、8月13日付け(ドル円相場が150円以下に定着しだした頃。)から円の売り持ち(ドルの買い持ち)から買い持ち(ドルの売り持ち)に転じて、以降じわじわとそのポジションを増やして、9月24日付でネットで円の買い持ちが66,011枚(ドル換算で約57億ドルの売り持ち。)となっている。

彼らは当然先行きのドル円相場に対して弱気であると言える。

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対する逆張り(トレンドに逆らって、相場が下がれば買い、上がれば売る手法。)を得意とする我が国個人投資家は、ドル円が160円に近付いた6月24日時点で約4億ドルの売り持ちに転じた後は多少の増減はあるものの、一貫してドルの買い持ちを保持しており、10月3日時点で約13億ドルの買い持ちとなっている。

(注:下のチャートは先週、9月23日付けの物。この1週間で更に7億ドル買い持ちを増やしている。)

彼らは当然先行きのドル円相場に対して強気であると言える。

何方の見通し(思惑?)が正しいかは現時点では分かり様が無いが、さてどうなる事であろうか?

今月は10月30日~31日に予定されている日銀政策決定会合以外、目立ったイベントは無いが石破新総裁の所信が徐々に明らかになるにつれて為替相場と株価がどう反応するかが、興味深い。

常識的には株安=ドル安&円高、株高=ドル高&円安の図式が頭に浮かぶが、先月の動きを見てもそうすんなりとは行きそうにない。

陽気は大分落ち着いてきたが、相場は未だ熱い状況が続きそうである。

酒匂隆雄 (さこう・たかお)

酒匂・エフエックス・アドバイザリー 代表
1970年に北海道大学を卒業後、国内外の主要銀行で為替ディーラーとして外国為替業務に従事。
その後1992年に、スイス・ユニオン銀行東京支店にファースト・バイス・プレジデントとして入行。
さらに1998年には、スイス銀行との合併に伴いUBS銀行となった同行の外国為替部長、東京支店長と歴任。
現在は、酒匂・エフエックス・アドバイザリーの代表、日本フォレックスクラブの名誉会員。


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