酒匂隆雄の「為替ランドスケープ」 

酒匂隆雄の為替ランドスケープ 2024年07月号

2024/07/01

政府と財務省は、行き過ぎた円安を是正するために、4月29日と5月2日に大規模な市場介入を実施しました。しかし、その効果は思わしくなく、円安は再び進行しています。財務省が発表した外国為替平衡操作の実施状況によると、介入額は9兆7,885億円に達しましたが、外貨準備高の減少は期待ほどではありませんでした。市場の反応や日米金利差の影響について検証し、今後の展望を探ります。

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介入の効果、表れず

我が国政府・財務省は行き過ぎた円安を是正する為に、4月29日と5月2日に大規模介入を行い、財務省が発表した“外国為替平衡操作の実施状況”によるとその額は9兆7,885億円にも上った。

介入が行われた157円~159円の相場で単純計算すると97,885億円÷158円≒620億ドルとなるのだが、5月末に発表された我が国の外貨準備高は前月から約474億ドルしか減少しておらず、その差額はよく分からない。

言い換えれば、外貨準備を使ってドル売り&円買い介入を行ったので、600億ドル以上の外貨準備が減って当然なのだが、500億ドル以下しか減っていないのだ。

令和6年5月末における我が国の外貨準備高は、1,231,572百万ドルとなり、令和6年4月末と比べ、47,405百万ドル減少した。

外貨準備等の状況は以下の通りである。

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A.外貨準備 1,231,572
1.外貨 1,086,534
(a)証券 927,579
うち:本邦発行体分
(b)預金 158,955
i.外国中央銀毫及びBISへの預金 158,536
ii.本邦金融機関への預金 394
うち:海外拠点分
iii.外国金融機関への預金 25
うち:本邦内拠点分 25
2.IMFリザーブポジション 10,659
3.SDR 56,930
4.金 63,870
(重量[百万トロイオンス]) (27.20)
5.その他外貨準備 13,579
(a)金融派生商品
(b)被銀行非居住者に対する貸付
(c)その他 13,579
B.その他外貨資産 40,759

何れにせよ、ひと月のドル売り&円買い介入額としては過去最大のものとなった。

介入により、介入初日の4月29日に高値160.21を付けたドル円・相場は一時151.86迄下落して大きな効果が有ったと思われたが、その後二ヶ月の間に再びじりじりと値を上げて先週末介入水準をも上回る161.27迄上昇した。

4月から6月末までのドル円・ローソク足・日足チャート

この二ヶ月の間も政府・財務省は度々円安進行に対して、“必要とあらば断固たる措置を取る。”と介入警告を発したが結局第三弾の介入は出ずに凡そ38年ぶりとなるドル高&円安相場を示現することとなった。

その理由の一つは、市場がドル高&円安の進行の元凶である日米金利差が縮小を始めるタイミングを計りかねていることにある。 米国の消費者物価指数は今年3月に3.5%迄上昇した後、4月は3.4%、5月は3.3%と着実に下落してきたが、FRB.高官は依然としてインフレ警戒感を解かず、年初には3回以上期待されていた利下げ回数が1.5回(利下げが有ったとしても1回か2回。)まで下げている。

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日付結果
2023年1月6.40%
2023年6月3.00%
2023年12月3.40%
2024年1月3.10%
2024年2月3.20%
2024年3月3.50%
2024年4月3.40%
2024年5月3.30%

片や日銀であるが、円安対策として6月の政策決定会合で国債購入の減額などの方策が打ち出されるかも知れないとの期待(思惑?)に反してゼロ回答となり、結局FRBによる利下げと日銀による金融引き締め策への転換(利上げや国債購入減額。)が遅れて日米金利差縮小が遅れるとの思惑が広がった。

投機筋の筆頭であるシカゴ・IMMは介入前には凡そ145億ドル相当のドルの買い持ち(円の売り持ち)を保持ししていたが、介入後一時101億ドル相当まで縮めたドルの買い持ち額を6月25日時点では再び約136億ドル相当までドルの買い持ちを増やしている。

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青いバーがシカゴ・IMMの円の売り持ち枚数(173,900枚)
約136億ドルの買い持ちを表し、赤い線がドル・円相場の動きを示している。

正に、“介入なにするものぞ!”と円売り攻勢を続けていることになる。

政府・財務省の言う、“投機的な動き。”とは、彼らのこの行動を指しているとも言える。

他のドル高&円安の進行の要因として、今年から始まった新NISAによる外貨資産(主に米国株式と思われる。)購入の為の円売りが挙げられようか?

1月〜5月の国内の投資信託運用会社などによる海外投資は5.6兆円超の買い越しとなり、その多くが米国株式購入となったとすれば、凡そ350億ドル程度のドル需要が発生することになり、これは4月と5月の介入額の半分以上となる計算になる。

纏めると、日米金利差縮小が遅れるとの思惑と実需のドル買い&円売りのドル需要が凡そ38年ぶりのドル高&円安を演出したとも言え、この状況は短期的に収まるとも思えない。

ではこのまま座してドル高&円安の流れを放置するかと言うと、そうではなくドル売り介入で実需分のドル需要を賄い、日米金利差縮小が始まる迄の時間稼ぎをすれば良いのだ。

我が国の外貨準備は5月末時点で1兆2316億ドルもあり、介入に必要な銭はたっぷりあるのだ。

こんな最中、2022年、2024年と2年に渡ってドル売り&円買い介入の陣頭指揮に当たっていた神田財務官が7月31日付で退任すると言う人事を財務省が発表した。

通常は2年とされる財務官の任期を3年勤めあげた神田財務官の後任は三村国際局長で、これは財務省では極めて順当な人事異動にしか過ぎない。

歴代の財務官も、殆ど例外なく前職は国際局長ポストに居た。

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果敢にドル売り&円買い介入を行い、“令和のMr.Yen”と呼ばれた“神田財務官退任のニュースを聞いて、“これで財務省によるドル買い&円買い介入の勢いが削がれるのではないか?”との憶測が流れたが、“絶対にそう言う事は無い!”と断言する。

歴代の財務官、国際局長を存知上げているが、東京大学を優秀な成績で卒業して上級公務員試験を好成績で突破して財務省(旧大蔵省)に入った彼らは、それはそれは頭脳明晰で物凄く優秀である。

三村新財務官は個人的には存じ上げないが、神田前財務官よりももっとAggressive.(攻撃的)な介入をするかも知れないし、しないかも知れない。

Who knows?=分からない。

介入のプロセスは、財務官が政府と緊密に情報交換し、国際局長に指示をして為替市場課が日銀に介入のオーダーを流す。

政府-財務官(財務大臣)-財務省国際局-為替市場課-日銀金融市場局-為替課-市中銀行-為替市場の流れで介入が行われることになる。

介入に関して話が長くなってしまったが、我が国で一番優秀な頭脳集団(政治家はこの中には入らない。)がこのままおめおめと引き下がるとは考えられず、必ず介入が入るであろうことを確信している。

とは言え、今は明らかにドル高&円安のトレンドが続いている状況であることは間違いなく、介入期待でドルをショートにするのは危険であり、下がり出した時に追い掛けて売る逆張りが有効であろう。

先月号でご紹介した、IFOのオーダー、現在であれば
1)160.00でストップの売りオーダーと、同時に
2)161.00のストップの買いオーダーと
3)157.00の利食いの買いオーダーを入れる手法が有効と思っている。

自分の考えに反して依然としてドル高&円安が進んでいる現状は、しばし我慢と心得る。

酒匂隆雄 (さこう・たかお)

酒匂・エフエックス・アドバイザリー 代表
1970年に北海道大学を卒業後、国内外の主要銀行で為替ディーラーとして外国為替業務に従事。
その後1992年に、スイス・ユニオン銀行東京支店にファースト・バイス・プレジデントとして入行。
さらに1998年には、スイス銀行との合併に伴いUBS銀行となった同行の外国為替部長、東京支店長と歴任。
現在は、酒匂・エフエックス・アドバイザリーの代表、日本フォレックスクラブの名誉会員。

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