酒匂隆雄の為替ランドスケープ 2024年03月号
>週末のレートを予想して10万円ゲット!
世界中で株高が進み、日経平均株価や米国の主要株式市場指数が歴史的な高値を更新。経済指標の予想を上回ったことでFRBの利下げ期待後退、為替市場ではドル高となるも株価は上昇。日銀幹部の発言からはマイナス金利解除の可能性浮上し、市場ではドル・円相場に関する見解が分かれる。
金利高、ドル高、そして株高
世界中で株高が進んでいる。
日経平均株価は34年ぶりにバブル期に付けたそれ迄の高値の38,915.87を更新して大台の4万円に迫まる勢いとなり、ダウ、ナスダックそしてS&P.のニューヨーク株式市場3指数も揃って史上最高値を更新した。
2月の月初に発表された1月の米国雇用統計で失業率が低下する中、非農業部門雇用者数、そして平均時給も市場予想を大きく上回って米国経済の力強さを示す形となり、その後発表された米国CPI(消費者物価指数)とPPI(卸売物価指数)が市場予想を上回る上昇を見せて米国のインフレ兆候が未だ収まっていないことを示したことによりFRB.による早期利下げ期待が後退して長期金利が上昇した。
為替市場では金利上昇を受けてドルも上げたが、同時に株価も上げた。
通常金利が上昇すると株価は下落するが、エヌビディアなどの半導体関連株の急騰につられてその他の関連株も買われて、金利高、ドル高、そして株高と言う珍しい現象が起きたのである。
銘柄 | 2月1日 | 2月29日 | 変化 |
---|---|---|---|
日本10年国債利回り | 0.690% | 0.710% | +0.020% |
米国10年国債利回り | 3.882% | 4.254% | +0.37% |
日経平均株価 | 36,011.46 | 39,166.19 | +8.8% |
ダウ | 38,519.84 | 38,996.39 | +1.2% |
ナスダック | 15,361.64 | 16,091.92 | +4.8% |
S&P | 4,906.19 | 5,096.27 | +3.9% |
ドル円 | 146.41 | 149.97 | +2.4% |
ユーロドル | 1.0871 | 1.804 | -0.6% |
ポンドドル | 1.2743 | 1.2623 | -0.9% |
豪ドルドル | 0.6571 | 0.6496 | -1.1% |
その後もFRB高官による度重なる“早急な利下げのリスク。”発言で益々早期の利下げ機運は後退し、一時市場が期待した“3月からの利下げ開始。”の可能性は殆どゼロとなった。
市場は早くとも利下げ開始時期は6月にずれ込んだと見る。
これはドル高&円安材料となる。
片や日銀であるが、植田総裁と内田副総裁が相次いで“物価見通し実現の確度が高まりつつある。”と発言してマイナス金利からの脱却のタイミングが近付きつつあることを示唆した。
昨日も日銀の高田審議委員が講演の中で2%の物価安定目標について“実現がようやく見通せる状況になってきた。”と発言しており、市場は早ければ3月にでもマイナス金利解除の可能性が有るとの見方も出て来た。
これはドル安&円高材料となる。
但しこれら日銀幹部は何れもマイナス金利解除後に、“どんどん利上げをしていくことは無く、緩和的な金融政策を維持していく。”と釘を刺した。
現在の我が国の政策金利は-0.1%で米国のそれは5.5%である。
つまり日米金利差は5.6%となる。
3月に日銀がゼロ金利解除すると政策金利は0%で日米金利差は5.5%となり、これはFRB.による利下げ開始と見られる6月まで続くことになる。
言い換えればあと3ヶ月は日米金利差は殆ど縮小しないと言える。(たった0.1%縮小するが..)
筆者を含む多くの市場参加者が今年のドル・円相場に関して、“日米金利差縮小の動きの観点から、年始がドルの高値で年末がドルの安値を見る。”と言う意見が圧倒的であったが、米国経済の力強さと衰えを見せないインフレ兆候によるFRB.の利下げ時期後退から鑑みて、暫くはドル安&円高の動きを期待するのは難しいのかも知れない。
この難しい局面で大手の投機筋であるシカゴ・IMMと“ミセズ・わたなべ。”の異名を取る我が国の個人投資家の思惑は異なる。
前者は円の先安観(ドルの先高観)を持ち、永らく円の売り持ち(ドルの買い持ち)を保持している。
(先週の2月20日時点でネットで円の120,778枚の売り持ち=ドル換算で約101億ドル。)
そして我が国個人投資家は150円台での当局のドル売り&円買い介入を期待してか、此処ひと月以上ドルの売り落ちに転じている。
両者のポジションのサイズの差から見ても、そう簡単には比較出来ないが少なくともドル・円相場は上がると考えているグループ(シカゴ・IMM)と、逆にドル・円相場は下がると考えているグループ(我が国個人投資家)が存在していると言うのが興味深い。
テクニカル分析の観点から、現在はドルの買われ過ぎを示唆する向きも多いが、日米金利差が顕著に縮小し始めるであろう6月くらいまではドルは下がり難いのかも知れない。
暫くは、Buy on dips.(ドルが下がれば買う。)と言う戦略が有効かもしれない。
酒匂隆雄 (さこう・たかお)
酒匂・エフエックス・アドバイザリー 代表
1970年に北海道大学を卒業後、国内外の主要銀行で為替ディーラーとして外国為替業務に従事。
その後1992年に、スイス・ユニオン銀行東京支店にファースト・バイス・プレジデントとして入行。
さらに1998年には、スイス銀行との合併に伴いUBS銀行となった同行の外国為替部長、東京支店長と歴任。
現在は、酒匂・エフエックス・アドバイザリーの代表、日本フォレックスクラブの名誉会員。
公式ブログ:酒匂隆雄が語る「畢生の遊楽三昧」
>週末のレートを予想して10万円ゲット!