酒匂隆雄の「為替ランドスケープ」 

酒匂隆雄の為替ランドスケープ 2023年6月号

2023/06/01

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株高、米金利高、そしてドル高。ドル・円相場は5月に入って一時安値133.51を付けたが、その後徐々に値を上げ、今週火曜日には凡そ半年ぶりの高値となる140.92を示現した。

株高、米金利高、そしてドル高。

ドル・円相場は5月に入って一時安値133.51を付けたが、その後徐々に値を上げ、今週火曜日には凡そ半年ぶりの高値となる140.92を示現した。

年初からのドル・円相場、日足・ローソク足チャート

ドル高&円安進行の背景には日本株と米国長期金利上昇が挙げられる。

日経平均株価は5月に凡そ8%もの上昇を見せてバブル崩壊後の高値を更新したが、この日経平均株価の上昇の背景には米国著名投資家であるウォーレン・バフェット氏の日本株買い推奨に乗った海外の投資家の買いがあると思われるが、日銀による執拗な緩和策継続方針も彼らに日本株買い安心感を与えているのかも知れない。

海外の投資家は購入した日本株に対する為替ヘッジとして先物で円を売っており、ドル高&円安の動きを助長した。

米国長期金利の上昇は、5月に発表された経済指標の多くが市場予想を上回った事や、インフレ関連の指標が必ずしもインフレ鈍化を示すものではなかったことを受けてFRB.の何人かの高官が利上げ継続を支持するタカ派的(利上げに積極的)な発言を行ったことにある。

前回FOMC.後の利上げ打ち止めを仄めかしたパウエルFRB議長への忖度などは微塵も見られない誠にアメリカ的な行動であると感心する。

日本では政策委員が日銀総裁のコメントに真っ向から歯向かう意見を述べるのは難しかろう..

株価上昇、米国長期金利上昇を受けてドル・円相場は上昇した訳であるが、その他にも筆者を含めたドル・ベア派(ドルに対して弱気)のドルの売り持ちポジションの巻き戻し(損切りのドル買い。)も見受けられた。

我が国個人投資家は5月23日(火)の段階で139円台を目の前にして、久し振りにドルの売り持ち(ネットで約3億ドルの売り持ち)に転じていた為、ドルの急上昇を見て彼らが慌ててドルを買い戻したのである。

急激なドル高&円安の進行を受けて市場参加者の一部、特に海外勢から我が国金融当局によるドル売り&円買い介入が行われるのではないかとの憶測も出だした。

先週鈴木財務相が“為替相場はファンダメンタルズを反映すべきであり、現在の為替相場を注視している。”と述べ、また5月30日には財務省、金融庁、そして日銀が国際金融資本市場に関する情報交換会(3者会合)を開催した為に当局による為替介入に対する警戒感が頭をもたげて来た。

約24年ぶりのドル売り&円買い介入に動いた昨年9月もその前にこの3者会談が開かれており、140円を超えるドル高&円安の進行に対して当局が神経質になっていることが計り知れる。

その影響を受けて月末の為替市場ではドル売り&円買いが進み、一時139円台を割る場面が見られたが、現時点では為替介入の可能性は低いと思われる。

昨年の大規模介入の折は“為替市場のボラティリティが大き過ぎる。”ので介入によって鎮静化を図った、と言うのが大義名分であり、米国財務省もOK.した経緯が有ったが、現在の相場がボラティリティが決して大きいとは思えない。

後は放っておけば更なる円安が続くかも知れない状況で、政治的に円安進行を許容するかがポイントになろうか?

どうも日銀のインフレに対する感覚と、我々一般人とのそれに相当な開きが有る様に思えてならない。

日銀は“現在の物価上昇は一過性のものであり、何れ再び2%を割る。”と言い切って利上げに異常なほど慎重であるが、我々庶民は諸物価の高騰に悲鳴を上げている。

円安は輸入物価を押し上げ、消費者物価指数をも押し上げる。

衆議院解散の可能性が囁かれ始めたが、再び支持率が下がり始めた岸田政権が為替相場に対してどの様な考えを持っているかは知る由も無いが、“悪い円安。”について認識をして頂ければ良いなと感じている。

6月13日~14日開催されるFOMC(現在は0.25%の利上げか据え置きかの意見が拮抗している。)、そして15日~16日に開催される日銀政策決定会合(現在は政策変更無しが有力視されているが、一部にはイールドカーブ・コントロール幅変更を期待する向きも有る。)辺りが山場となりそうである。

レべル的にはそろそろドル売り&円買いを行いたいところであるが、“落ちるナイフを掴もうとするな。”と言う格言が有る。

円安が急激に進んでいる現状で落ちるナイフ(円)を摘まもうとする必要は無いかも知れない。 ナイフが落ち切った(円安が底を打った。)と確認してから拾っても(円を買う。)良かろう

酒匂隆雄 (さこう・たかお)

酒匂・エフエックス・アドバイザリー 代表
1970年に北海道大学を卒業後、国内外の主要銀行で為替ディーラーとして外国為替業務に従事。
その後1992年に、スイス・ユニオン銀行東京支店にファースト・バイス・プレジデントとして入行。
さらに1998年には、スイス銀行との合併に伴いUBS銀行となった同行の外国為替部長、東京支店長と歴任。
現在は、酒匂・エフエックス・アドバイザリーの代表、日本フォレックスクラブの名誉会員。


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