酒匂隆雄の為替ランドスケープ 2023年4月号
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突然の金融不安が世界市場に広がり、中央銀行や政府が対策を講じる中、ドル・円相場や金利動向など、今後の展開が注目されます。新年度を迎える中、投資家はどのような展開を見込むべきかを考察します。
突然の金融不安
米国に於けるインフレ鎮静化を受けて、FRBは11月の0.75%の利上げから12月は0.50%、そして2月は0.25%への利上げと徐々に利上げ幅を縮小してきたが、2月に発表になった米国経済指標がことごとく市場予想を上回るものとなり、3月のFOMCにおいて市場では再び0.50%の利上げ機運が高まっていた矢先にとんでもない事が起きた。
カリフォルニアに拠点を置くシリコンバレー銀行(SVB.)が突然破綻し、その余波で米国の中小銀行の幾つかが破綻すると言う、ある種の金融不安とも言える事件が勃発した。
その後この不安は欧州にも飛び火してスイス第二の銀行のクレディット・スイス銀行がスイス最大手のUBS.に合併・吸収され、またお隣のドイツでも国内最大銀行であるドイッチェ・バンクの株価が暴落して欧米発の金融不安が極めて深刻な物となった。
市場は当然リスク・オフ(投資家が既存の債権の圧縮に走り、新規投資を控える。)の動きとなって、安全資産である債券、金、そして為替市場ではドルと円が買われて株が大きく売られる展開となった。
月初の3月1日の終値とリスク・オフがピークとなった3月中旬とのそれを比べると、
ドル円 | ユーロドル | 金 | 米国10年債利回り | 日経平均 | ダウ | |
---|---|---|---|---|---|---|
3月1日 | 136.22 | 1.0668 | 1845ドル | 3.994% | 27,516 | 32,662 |
3月中旬 | 129.65 | 1.0576 | 1983ドル | 3.413% | 26,945 | 31,862 |
で、一番目を引くのはドル・円相場の下げであるが、これは対主要通貨ではドルは買われたが、相対的にドル買いよりも円買いが勝ってドルと円の通貨ペアーであるドル・円は下げたことと、米国10年債が買われて利回りが大きく下げてドル・円が売られたことによる。
金融不安勃発後の各国の反応は素早く、米国では破綻したSVB.や他の銀行の預金を全額保証したり、FRB、イングランド銀行、日銀、ECB、スイス国立銀行、そしてカナダ中央銀行の6中央銀行がすかさず市場へのドル供給を発表し、またスイス政府とスイス国立銀行はUBSによるクレディット・スイス銀行の買収を素早くまとめた。
これにより一応金融不安は収まった形となって3月21日~22日に開催されたFOMCでは0.25%の利上げに留めることが決定された。
当然リスク・オフの巻き戻しが顕著となって買われた物は売り戻されて対主要通貨でドルが売られ、円売りが勝ってドル・円は上昇し、又株価も大きく戻すこととなった。
ドル円 | ユーロドル | 金 | 米国10年債利回り | 日経平均 | ダウ | |
---|---|---|---|---|---|---|
3月中旬 | 129.65 | 1.0576 | 1983ドル | 3.413% | 26,945 | 31,862 |
3月31日終値 | 132.82 | 1.843 | 1986ドル | 3.473% | 28,041 | 33,274 |
金価格が下げるどころか多少上昇しているが、 金市場では未だリスク・オフからの転換を信じていないのかも知れない。
ドル・円相場の動きを見ると月初136円台で始まり、一時137.90の高値を付けたが上述の金融不安勃発により129.65の安値を付けた後4月2日現在で133円台まで値を戻している。
4月に入って新年度が始まりこれからのドル・円相場の行方が大いに気になるところであるが、果たして3月の金融不安が完璧に解消したのか、FRBの利上げは何時まで続くのか、そして今月から植田新体制となる日銀の金融政策に変化が有るのか色々な不安要素が横たわる。
先ずは金融不安であるがSVB.の破綻はFRBによる急激な利上げが影響を与えたことは明白である。
となると更なる利上げが予想される中、第二、第三のSVBが出て来ることは否定は出来ない。
これは対円ではドル安材料となる。
次にFRBであるが市場は5月のFOMCで利上げ打ち止め、そして早ければ年内の利下げ開始を催促する。
ところがFRB高官からは相変わらずタカ派的(金融引き締めに積極的)な発言が相次いで市場とFRBの認識にずれが見られる。
市場の予想を信じればそろそろドルの天井は近いと思われるが、FRBのタカ派的意見に耳を傾ければ更なるドルの上昇も大いに有り得る。
最後に日銀に関しては学者先生の植田新総裁のお手並み拝見と言うところであるが、市場は早急なイールド・カーブ・コントロール政策の是正を求めている。
先月の金融不安の影響で0.50%に張り付いていた10年債利回りが0.3%台へと下落したが、何れ0.50%へ戻るのは時間の問題であろう。
これは円高材料となる。
4月に入って新年度となり、投資家が新規投資に積極的になってリスク・オンとなれば市場も再び活気付くこととなろうか?
短期的なFlow(資金の流れ)に沿ってドル・円相場は再び140円台を目指すのか、或いは近い将来の米金利下落を見越して125円台を目指すのか?
中々面白い新年度の始まりとなりそうである。
酒匂隆雄 (さこう・たかお)
酒匂・エフエックス・アドバイザリー 代表
1970年に北海道大学を卒業後、国内外の主要銀行で為替ディーラーとして外国為替業務に従事。
その後1992年に、スイス・ユニオン銀行東京支店にファースト・バイス・プレジデントとして入行。
さらに1998年には、スイス銀行との合併に伴いUBS銀行となった同行の外国為替部長、東京支店長と歴任。
現在は、酒匂・エフエックス・アドバイザリーの代表、日本フォレックスクラブの名誉会員。
公式ブログ:酒匂隆雄が語る「畢生の遊楽三昧」
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