酒匂隆雄の為替ランドスケープ 2023年3月号
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1月16日に安値127.23の安値を付けたドル・円相場は2月に入ってから急激に値を戻し、昨日2月28日には今年の戻り高値である136.91を示現した。
ハト派からタカ派へ
米国はインフレの指標である消費者物価指数(CPI.)の高止まりを受けて連邦準備委員会(FRB.)は2022年3月から利上げを開始し、3月0.25%、5月0.50%、6月、7月,9月そして11月に0.75%ずつ、そして12月に0.50%の利上げを行って政策金利を0.25%から4.50%へと引き上げた。
FRBが金融政策を極めてタカ派的(金融引き締めに積極的)のものにしたのである。
そして前回2月の公開市場委員会(FOMC.)では引上げ幅を0.25%に縮小して現在4.75%としたが、12月の0.50%から0.25%への利上げ幅縮小の背景にはCPI.が6月にピークを付けて下落基調にあることがある。
2022年6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 | 2023年1月 | |
CPI | 9.10% | 8.50% | 8.30% | 8.20% | 7.70% | 7.10% | 6.50% | 6.40% |
上の表で見られる様にCPI.は着実に下落しており、1月までは”米国のインフレはピーク・アウトした。FRB.はそれに従って利上げペースを緩め、年内にも利下げの議論が出るだろう。”とのハト派的(金融緩和に積極的)な意見が台頭しだして長期金利が下げてドルも下げ、株価は上昇した。
そんな中、ドル・円相場は1月16日に127.23の安値を付けたのである。
ドルは対円だけではなく、その他主要通貨に対しても大きく下落した。
ところが前年比では順調に下げているかに見える米国CPI.であるが1月の数字(前年比+6.4%)を見ると、何と前月比では12月の+0.1%から+0.5%へと市場予想を大きく上回る上昇を見せて、インフレ鈍化の鈍化(物価の下落基調がスロー・ダウンする。)が嫌気されて急に市場はタカ派的ムードに戻って長期金利が急上昇を見せ始めたのである。
市場がハト派になる前の2022年12月31日、ドル・円相場が今年安値を付けた1月16日、そして今年の戻り高値を付けた昨日2月28日の相場を見てみると、タカ派からハト派、そして再びタカ派へと変化して金利低下=ドル下落=株価上昇から、金利上昇=ドル上昇=株価下落となっていることが見て取れる。
12月31日 | 1月16日 | 2月28日 | |
米10年債利回り | 3.88% | 3.50% | 3.92% |
ドル・円 | 131.11 | 127.23 | 136.22 |
ユーロ・ドル | 1.0699 | 1.2286 | 1.2021 |
ポンド・ドル | 1.2093 | 1.2286 | 1.2021 |
豪ドル・ドル | 0.6815 | 0.6988 | 0.6729 |
NYダウ | 33,147 | 34,303 | 32,657 |
市場が再びタカ派的に傾きつつある理由は他にもある。
1月米国雇用統計の数字を始め、非製造業ISM.、小売売上高、そしてCPI.発表後の経済指標(購買担当者景気指数、個人消費支出、個人所得)がことごとく市場予想を上回るものでFRB.による利上げペースのスローダウンを正当化するものではなく、3月21日~22日に開催される次回のFOMC.において、再び0.50 %の利上げが必要だとの意見も出だした。
米国金融政策に対してタカ派的意見の復活である。
ところで次期日銀総裁候補としてそれまでの本命候補の雨宮現日銀副総裁ではなく学者出身の植田和男氏が任命され、先週国会での所信聴取が行われた。
植田氏は所信聴取で”現在の日銀の金融政策は適切だ。”と指摘し、金融緩和政策を継続する考えを強調した。
同時にイールド・カーブ・コントロール政策(YCC)の副作用軽減のため、対象年限を前倒しすることはオプションの1つであると述べるなど、将来の政策修正が意識されるような発言もあって一時は円買いに振れる場面も見られたが、所信聴取の中身は基本的には市場の大方の予想通りであり、聴取終了後は当面は黒田路線継承との思惑からドル・円相場はじり高の展開となり、米国長期金利上昇と相まって昨日本年の戻り高値を付けることとなったのである。
植田新体制は4月8日の黒田現総裁の辞任後に始まる訳で、暫くはドル・円相場に対しては大きな影響を与えることは考え難く、矢張り当面は米国の物価、経済動向が為替相場のDriving force.(原動力)となっていくのであろう。
個人的には短期的なドル高のトレンドは変わらないと見るが、市場が多少米国金利上昇=ドル高=株安ムードに前のめりになり過ぎている様な気がしないでもない。
何れは再びFRB.のハト派(金融引き締めに消極的=金融緩和に積極的)化と日銀による現行の緩和政策の修正が行われることは必定である。
ドル・円のロング(買い持ち)ポジションを保持するのは時限爆弾を抱えている様な気がしてならない。
只その時限爆弾のスイッチは少なくともあとひと月(植田新日銀総裁の誕生)は入りそうにないが..
恐る恐るドルのロングを持ちながら、果報を待ちますか?
酒匂隆雄 (さこう・たかお)
酒匂・エフエックス・アドバイザリー 代表
1970年に北海道大学を卒業後、国内外の主要銀行で為替ディーラーとして外国為替業務に従事。
その後1992年に、スイス・ユニオン銀行東京支店にファースト・バイス・プレジデントとして入行。
さらに1998年には、スイス銀行との合併に伴いUBS銀行となった同行の外国為替部長、東京支店長と歴任。
現在は、酒匂・エフエックス・アドバイザリーの代表、日本フォレックスクラブの名誉会員。
公式ブログ:酒匂隆雄が語る「畢生の遊楽三昧」
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