酒匂隆雄の為替ランドスケープ 2023年2月号
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年初から3週間ほど130円を中心に、週の値幅が4円~5円と言う極めてVolatile.(変動率の大きい。)な動きを見せたドル・円相場が徐々にその値幅を縮めつつある。
1月からの高値は6日付けた134.77でその後徐々に値を切り下げつつあり、安値は16日に付けた127.23でこちらは逆にその後徐々に値を切り上げつつある。
125円か、それとも135円か?
(今年に入ってからのドル・円相場・日足・ローソク足チャート)
高値 | 安値 | 値幅 | |
---|---|---|---|
1/2-1/6 | 134.77 | 129.51 | 5.26 |
1/9-1/13 | 132.87 | 127.45 | 5.42 |
1/16-1/20 | 131.57 | 127.23 | 4.34 |
1/23-1/27 | 131.12 | 129.02 | 2.10 |
1/30-1/31 | 130.56 | 129.20 | 1.36 |
言い換えれば徐々に1月のレンジの真ん中とも言える130円に収斂にしつつあるとも見えるが、現状では市場が130円前後を”心地良いレベル。”と認識しているのかも知れない。
それではこのままその”心地良いレベル”である130円前後に落ち着くかと言うと、それは有り得ない。
昨年のドル高&円安の動きの主導役であった日米金利差拡大の思惑と国際収支悪化に代表される我が国のファンダメンタルズの悪化が進むと再びドル高&円安が進むであろうし、逆にこの両者に反転の兆しが見られればドル安&円高が進むことになる。
ドル・円相場は2022年10月21日に高値151.94を付けてから大きくドル安&円高が進んだが、これはFRBによる利上げペースのスロー・ダウンを先取りしたもので、実際FRBは12月はそれまでの4回に渡る0.75%と言う大幅な利上げ幅を0.50%に縮め、1月のFOMC.では更に縮めて0.25%の利上げに留めた。
明日終了する2月のFOMC.でも0.25%の小幅な利上げに留まると市場は予想する。
FRBの利上げペースのスロー・ダウンだけでは150円から130円へと13%ものドル安&円高が進むのは難しかったであろうが、12月20日の政策決定会合で日銀が突然イールド・カーブ・コントロール(YCC)の上限幅を0.25%から0.50%へ変更すると発表して、一挙にドル売り&円高の動きが強まった。
(2022年からのドル・円相場・週足・ローソク足チャート)
海外の投機筋はこれを機に日銀による更なるYCC上限幅の拡大や、ゼロ金利政策からの脱却を確信しており、円金利上昇による円高進行を見込んでいる。
また我が国の国際収支状況も11月は約2兆円強の貿易赤字を計上したが、その後の円高進行とJ-カーブ効果(為替相場が自国通貨安・外国通貨高になったにも関わらず、為替相場が変化した当初は貿易収支が悪化し、その後、時間が経過するにつれ、貿易収支が改善し始める効果を意味する。)により、2023年は好転(貿易収支赤字が減少し、経常収支黒字が増加する。)が見込まれる。
まとめると、1)米国金利の上昇ペースが鈍化する。2)我が国金利が上昇傾向にある。=日米金利差縮小、そして3)我が国ファンダメンタルズ好転となれば、ドル安&円高が進むと考えるのが簡単だが実は上述した様に市場はそれを見越して既にドルを売り、円を買った結果ドル安&円高が進んだのである。
1月1日に日経新聞系列の週刊・日経ヴェリタスが66名の有識者にアンケートを取り、2023年のドル・円相場の安値と高値、そしてその時期を尋ねたが安値の平均は122円でその時期は圧倒的に12月であった。
高値の平均は142円でその時期は1月~3月の3ヶ月に集中し、これを一言で言うと有識者は(或いは市場は?)、2023年のドル・円相場は122円~142円のレンジ内で推移し、年初にドル高のピークを見てその後日米金利差縮小と我が国ファンダメンタルズ好転を鑑みて年末に向けてドル安に進んでいくと言うシナリオである。
筆者も同じ様な相場観を抱いているが、ふと相場を振り返ると既に1月に安値127.23を示現しているではないか?
これから年末に向けてドル安&円高進むのであれば有識者の言う安値の平均122円で収まるかどうか分からない。
現在は心地良い130円を挟んでのレンジ取引が行われているが、これから125円が先か或いは135円が先かを読むのは難しいが、個人的な意見を述べさせて貰うと市場は大分様々な要因を先取りしている様な気がしてならず、
1) 米国金利の上昇ペースは鈍化するものの、少なくともあと2~3回の利上げは確実である。
2) 我が国金利は上昇傾向にあるものの、本格的な政策変更は黒田総裁が退任後の4月以降の新執行部に委ねられる筈であり、あと2ヶ月は円金利の大幅な上昇は見込めない。
3) 円高とJ.カーブ効果が顕著に表れるには凡そ半年は掛かると思われる。
を考えると、一旦ドル安&円高のペースは緩んで140円以上への戻しが有り、その後上の1),2),3)がこなれて再びドル安&円高に進むと考えるが、如何であろうか?
相場は思惑通りには動かない。
市場では、
No risk, no return.(リスクを取らないと利益は上がらない。)
High risk, high return.(大きな利益を上げるには大きなリスクを取らなければならない。)
と言うが、
現状の難しい相場展開の中、
Small risk, small return.(利益は小さいがリスクも小さい。)
で良いのではなかろうか?
これは自分への戒めであるが,”損をしないのも相場の一つ。”と考えている。
ひと月が過ぎて利益状況が芳しくなくてもどうってことは無い。
なにせ今年はあと330日も有るのだから。
酒匂隆雄 (さこう・たかお)
酒匂・エフエックス・アドバイザリー 代表
1970年に北海道大学を卒業後、国内外の主要銀行で為替ディーラーとして外国為替業務に従事。
その後1992年に、スイス・ユニオン銀行東京支店にファースト・バイス・プレジデントとして入行。
さらに1998年には、スイス銀行との合併に伴いUBS銀行となった同行の外国為替部長、東京支店長と歴任。
現在は、酒匂・エフエックス・アドバイザリーの代表、日本フォレックスクラブの名誉会員。
公式ブログ:酒匂隆雄が語る「畢生の遊楽三昧」
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