酒匂隆雄の「為替ランドスケープ」 

酒匂隆雄の為替ランドスケープ 2022年4月号

2022/04/01

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ドル・円相場が大変なことになっている。
ファンダメンタルズ(日米金利差や景況感の違い)に則ったドル高&円安の動きと地政学的リスクの増大(特にウクライナ情勢の悪化)によるリスク・オフ(投資家が保有債権の圧縮と新規投資を控える。)による円買いから来るドル安&円高の動きが拮抗して年初から115円を挟んでのレンジ相場が続いていたが、3月11日にレンジの高値であった116.50を上切ると3月28日に高値125.08を付けるまで2日間を除いてあれよあれよと言う間に16日間上昇した。

ゲーム・チェンジ

(年初からの日足・ローソク足チャート。)

今まで為替市場で罷り通っていた”有事の際の円買い。”が通用しなくなり、正にゲーム・チェンジの感が有る。

円は対ドルだけで弱くなった訳ではなく、対主要通貨でも大幅に円安が進んでいる。

このひと月の終値ベースでの動きを見てみると、

通貨3月1日3月31日変化
ドル円114.89121.69+5.9%
ユーロ円127.81134.68+5.4%
ポンド円153.09159.92+4.5%
豪ドル円83.3391.05+9.3%

で、正に円の独歩安とも言える動きである。

どうしてこの様なことが起きたのか?

幾つかの要因が考えられる。

-我が国のファンダメンタルズ(経済的基礎要因)が更に悪化した。

FRBによる利上げが行われる中、日銀は金融緩和政策の維持を決め、日米金利差が益々拡大しており、また相対的な米国の景気の良さが目立つ。

3月8日に財務省が発表した我が国の1月の経常収支は1兆1887億円の赤字を計上した。

これは2ヶ月連続の赤字となり、またその額は2014年1月の1兆4561億円に次ぐ過去2番目の赤字額で、世界的にエネルギー・原材料価格が上昇する中今後益々経常収支赤字額が増えることが予想される。

貿易赤字は7ヶ月連続して赤字を計上している。

-市場参加者が年初からのレンジ相場に慣れて114円台は買い、116円台は売ると言うレンジ取引を行い、ドルの上昇局面でドルの売り持ちに捕まってしまい、120円台を超えてからは損切りのドル買いが殺到した。

そのピークが125円で、パニック買いが収まると当然の様にドルは自然反落し3月31日には戻り安値121.29を付けた。

今は東京外為市場の出来高の半分近くを占めると言われている我が国個人投資家の持ち高の動きを見ると、117円台でドルの売り持ちで捕まり、125円台ではドルの買い持ちに捕まった模様である。これらの損切りの取引がドル・円相場の上下の動きの激しさを助長したものと思われる。

-海外主要国で長期金利が上昇する中、日銀は金融緩和政策の一環として始めたイールド・カーブ・コントロール(日本銀行が短期と長期金利の幅を0.25%に制限して10年債利回りの上昇を抑える。)内の0.25%以下に抑える為に債券を無制限に購入すると発表して短期金利のみならず長期金利の上昇を”無理やりに”抑える政策を打ち出して更なる円安感が台頭した。

-急激な円安進行に対して政治サイドや金融当局から”悪い円安。”となることを懸念する円安牽制が出ることが期待されたが、黒田日銀総裁は”ファンダメンタルズを反映した円安は日本の経済・物価にプラスである。”と現状の円安を肯定し、鈴木財務大臣や岸田首相は”急激な為替相場の変動は望ましくない。相場の動きを注視している。”と言う当たり前の事を言うだけで、市場に”やる気の無さ。”を露呈した。

-過去、円安が進行する度に円安牽制発言を行った米金融当局は、自国の高いインフレ率を抑制する為のドル高に対して寛容な姿勢を示している。

それではこのままどんどんドル高&円安が進行するか?

取り敢えず金利安、円安、そして株高を標榜したアベノミクスにより2015年6月に示現した125.85が当面のターゲットとなろうか?

(2012年からの月足・ローソク足チャート。)

今回の円安局面でドルは125.08で頭を打って反落したが、実は2015年にドル・円相場が125円台に乗せた時、黒田日銀総裁は”実質・実効ベースで円安が進んでいるが、これ以上円安が進むとは思えない。”と述べて円安牽制を行い、その後は上のチャートで見る様にドル・円相場100円を切るまで下落した。

円の現在の実質・実効レートは2015年のそれよりも更に下落しており、黒田総裁が豹変して円安牽制を行うであろうことは不思議ではない。

もしそれが無ければ上で述べた数々の円安要因を見ると130円をも目指す展開になることも考えられる。

Buy USD on dips.=(下がったらドルを買う。)と言う戦略が有効であろうか?

酒匂隆雄 (さこう・たかお)

酒匂・エフエックス・アドバイザリー 代表
1970年に北海道大学を卒業後、国内外の主要銀行で為替ディーラーとして外国為替業務に従事。
その後1992年に、スイス・ユニオン銀行東京支店にファースト・バイス・プレジデントとして入行。
さらに1998年には、スイス銀行との合併に伴いUBS銀行となった同行の外国為替部長、東京支店長と歴任。
現在は、酒匂・エフエックス・アドバイザリーの代表、日本フォレックスクラブの名誉会員。


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