鈴木雅光の「奔放自在」

資金循環統計の数字を細かく見ると

2024/08/16

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前回、資金循環統計について取り上げました。「家計の金融資産」は、2024年3月末時点で2199兆円になり、過去最高額を更新したこと。
昨年12月から今年3月までの3カ月間の増減率を見ると、現金・預金の残高が減少する一方、リスク性商品である株式、投資信託が大幅に増額したことなどについて触れました。
また、投資信託のなかでは、「eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)」が圧倒的に資金を集めたといった点にも触れました。

今回は、2024年1月に行われたNISAの制度見直しを受け、個人のお金は株式や投資信託にどの程度流れたのかという点について、もう少し詳しく見ていきたいと思います。 

NISAの制度見直しが行われ、非課税限度額が1800万円まで引き上げられたのが2024年1月ですから、2023年12月末から2024年3月末までの数字を見ると、どの金融商品にどのくらいの資金が移動したのかを把握できます。 

ちなみに前回も触れましたが、現金・預金の残高は減少しました。詳細は以下の通りです。左の数字が2023年12月末、右の数字が2024年3月末になります。そしてカッコ内が増減率です。 

現金・預金残高(2023年12月末)残高(2024
年3月末)
現金108兆9599億円105兆6844億円(▲3.01%)
流動性預金651兆7220億円650兆8961億円(▲0.13%) 
定期性預金360兆1184億円355兆320億円(▲1.41%)

定期性預金は2016年3月から33四半期連続で前期比マイナスが続いています。これは定期性預金から流動性預金への資金シフトが生じたためです。2016年3月といえば日本銀行がマイナス金利政策を導入した同じ期の数字です。マイナス金利政策が導入されたことによって、定期性預金と流動性預金の利率にほとんど差が無くなった結果、中途解約時に制約の少ない流動性預金に資金を移す動きが強まったのです。 

ただ、2023年12月末から2024年3月末までの数字で現金、ならびに流動性預金、定期性預金のすべてが前期比マイナスになったのは、インフレが定着する気配が強まり、とりわけ現金で資産を持つことのリスクに気付いた個人が、インフレリスクをヘッジできるリスク性商品に、資金を移動させたためと考えられます。 

では、実際にインフレリスクをヘッジできる可能性が高いとされる、株式や投資信託の残高はどうなったのでしょうか。これも、左の数字が2023年12月末、右の数字が2024年3月末で、カッコ内が増減率です。 

株式・投資信託残高(2023年12月末)残高(2024年3月末)
株式等275兆7752億円313兆1203億円(13.54%増) 
投資信託106兆1720億円119兆3792億円(12.44%増)

いずれも2ケタの増加率となりました。これを見ると、NISAの制度見直しを機に、「貯蓄から投資へ」の流れが着実に進んでいるように見えます。 

ただ、前回も触れたように、株式や投資信託のような価格変動商品の場合、その残高は時価評価ベースになる関係上、値上がり益による増加分が含まれていることに留意しておく必要があります。 

では、上記の増額分に含まれる値上がり益の割合は、どの程度に考えられるのでしょうか。 

まず株式等についてですが、2023年12月末から2024年3月末までの残高の増加額は、37兆3451億円です。同様に投資信託の増加額は13兆2072億円でした。これらのうち、値上がり益分がどの程度なのかを知るには、資金循環統計にある「調整額」の数字を見ます。それによると、2024年3月末時点における株式等と投資信託の調整額は、 

株式等・・・・・・42兆1299億円 

投資信託・・・・・・9兆3628億円 

このようになりました。これを残高の増加額と比較すると、株式等の調整額は増加額を上回りました。これは、残高では確かに37兆3451億円も増加したとはいえ、それを超える額が、株価の値上がり益によるものであると推測できます。日経平均株価は3月に過去最高値を更新し、4万円に乗せるところまで上昇しましたから、家計による株式の買付が無かったとしても、株価の値上がりによって残高は増えることになります。 

一方、投資信託の残高は13兆2072億円の増加でしたが、調整額は9兆3628億円ですから、値上がり益以上に残高が増えていることがわかります。 

これらの数字を見ると、NISAの制度見直しによって投資信託での運用が増えたものの、株式に関しては、まだそれほど投資する動きが活発化していないことが推測されます。 

それと同時に、前回も触れましたが、投資信託のなかでも多額の資金を集めたのが、「eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)」でした。2023年12月末時点における純資産総額は、1兆8205億6600万円でしたが、2024年3月29日時点では2兆9290億9900万円まで増えています。受益権口数の前日比に基準価額をかけて推計した資金の純流入額は、約7652億円なので、純粋に投資信託へと流入した額のかなりの部分を、このファンドが占めていたとも考えられます。 

言うまでもなく、同ファンドは世界中の株式市場に分散するものであり、同ファンド以外にも海外市場に投資するタイプのファンドが人気化していることを考えると、いかにNISAの制度見直しで投資信託に資金がシフトしつつあるとはいえ、国内株式市場に活性化につながりにくいのは、いささか皮肉な展開ではあります。

鈴木雅光(すずき・まさみつ)

金融ジャーナリスト
JOYnt代表。岡三証券、公社債新聞社、金融データシステムを経て独立し(有)JOYnt設立し代表に。雑誌への寄稿、単行本執筆のほか、投資信託、経済マーケットを中心に幅広くプロデュース業を展開。


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