結局、解約した人が損をした
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昨年の今ごろ、セゾン投信の元会長が会社をクビになり、ほんの少しだけ世間で話題となりました。
クビになった原因は、どうやら親会社の会長と、セゾン投信の販売方針について対立が生じ、親会社が株主権を行使してセゾン投信の元会長に辞任を突き付けたため、とされていますが、事の経緯についてメディアに話しているのは、セゾン投信元会長であり、親会社の会長は特にコメントを出していませんので、本当のところはよく分かりません。
ただ、セゾン投信元会長には、メディア内にも大勢のシンパがいるらしく、昨年の夏くらいにかけて多数、複数メディアを通じて、セゾン投信元会長に同情的な報道が流されました。
セゾン投信元会長は、「長期投資の伝道師」とか、「積立王子」などと称され、ファイナンシャルプランナーをはじめとして、個人向けにお金の話をしたり、あるいは書いたりしている人たちからの信用も厚く、そのためか、辞任報道が出てからというもの、SNSや取材などを通じて、とても中立的な意見とは思えないようなコメントを出していました。
いくつか取り上げてみましょう。
「王子ファンの1人として非常にショックです。運用が維持できてもコストが上がりそう?という直感があります」(女性FP)。
「資金流出が激しくなり純資産が減れば、信託報酬そのものは変わらなくても、実質コスト(総経費率)は高くなる可能性がある」(全国紙記者)。
「世の識者の多くは『中野さんが解任されたからと言ってあわててセゾン投信を売るな』とコメントしています。ただ、僕が受益者なら売りますね。今回の件で、セゾン投信の性格が変容してしまったと思うからです。全部売却しました」(男性FP)。
「セゾン投信の顧客はほぼイコール積立王子ファン。16年も前から全国を飛び回りコツコツ積立を奨励してきた伝道師だからこそ信じてお金を託した顧客からすれば、投資用不動産の不正融資問題を起した銀行に『移管』されたらビックリ」(全国紙記者)。
「中野さんのいないセゾン号に意味を見出せないので、本日全口解約しました」(男性IFA)。
とまあ、こんな感じでSNSにコメントが書き連ねられたわけですが、現実にはどうだったのでしょうか。
「セゾン投信の顧客はほぼイコール積立王子ファン」という意見もありますが、全国紙記者でこの程度の知見しか持ち合わせていないのが、何とも痛いところです。
確かに、セゾン投信元会長が全国を行脚して個人に直接、長期投資の重要性を説き、それによってファンになった人たちがセゾン投信のファンドを買ったというケースは、もちろんあるでしょう。
でも当時、確か6300億円程度の運用資産を持っていたと記憶するのですが、その大半が積立王子ファンなんて、あるはずがない。後ほど、実際の数字を挙げて詳述しますが、仮にそうだとしたら今ごろ、セゾン投信からは大量の資金流出が生じているはずですし、一方で元会長が新たに設立した投資信託会社には、大量の資金が流入しているはずです。
最も的外れに思えたのが、「今回の件で、セゾン投信の性格が変容してしまったと思うからです。全部売却しました」という意見でしょう。所詮はSNSでのコメントなので、どこまで影響力があるのかは分かりませんが、直接運用に関わっていたわけでもない、一会長職の人間が辞めたからといって、ファンドの性質まで変わってしまうと考えるのは、大袈裟に過ぎます。
実際、セゾン投信は元会長が辞任した後、自社サイトを通じて運用方針に変更はない旨を、しっかり受益者に伝えています。それすらも疑わしいとまで言うのであれば、解約するのも自由ですが、公式見解として「運用方針に変更はない」と言っているのだから、それは信用するべきでしょう。
あくまでも結果論に過ぎませんが、この騒動が勃発した2023年6月1日から直近(2024年5月30日)までの、セゾン投信が運用しているファンドの実績はどうだったのかというと、「セゾン・グローバルバランスファンド」の基準価額は、2万544円から2万5708円まで25.1%の上昇、「セゾン資産形成の達人ファンド」の基準価額は、3万4321円から4万4183円まで28.7%の上昇となりました。
もし、SNSのコメントに何らかの影響力があり、男性FPの解約発言で解約してしまった個人がいたとしたら、その人たちはこれだけのリターンを取り損ねたことになります。あくまでも結果論ではありますが、一時的な感情で解約した結果がこれというのは、お粗末な話としか言いようがありません。
さて、「セゾン投信の顧客はほぼイコール積立王子ファン」などと、堂々と描いた全国紙記者の意見は正しかったのかどうかを検証しましょう。前述したように、本当にそうだとするならば、セゾン投信からは多額の資金流出が生じているはずです。
元会長が新たに立ち上げたなかのアセットマネジメントは、4月25日に新ファンドを2本設定しました。積立王子ファンが大勢いるのだとしたら、さぞかしたくさんの資金が移動するはずです。
まず、なかのアセットマネジメントの2本のファンドが設定されてから5月30日までの間に、どの程度、受益権口数が増えたのかを計算してみました。
「なかの日本成長ファンド」・・・・・・3億864万8269口増
「なかの世界成長ファンド」・・・・・・3億411万9334口増
合計で6億1276万7603口増です。
一方、セゾン投信はどうでしょうか。同社は3本のファンドを運用しており、それぞれ、なかのアセットマネジメントが新ファンドの募集をスタートさせた4月19日時点から、5月30日までの受益権口数の増減を見たいと思います。なかのアセットマネジメントへの資金移動が活発に行われたとするならば、セゾン投信の受益権口数は、この間に大幅に減少するはずです。
「セゾン・グローバルバランスファンド」・・・・・・17億8182万5512口増
「セゾン資産形成の達人ファンド」・・・・・・8億8766万7870口増
「セゾン共創日本ファンド」・・・・・・1億1497万6105口増
合計で27億8446万9487口増でした。
もちろん、これから先がどうなるかは、現時点では分かりませんが、少なくとも現時点で目立った資金移動は起こっていないことになります。
鈴木雅光(すずき・まさみつ)
金融ジャーナリスト
JOYnt代表。岡三証券、公社債新聞社、金融データシステムを経て独立し(有)JOYnt設立し代表に。雑誌への寄稿、単行本執筆のほか、投資信託、経済マーケットを中心に幅広くプロデュース業を展開。
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