ファンドラップって本当にいいの?
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最近、「ファンドラップ」のテレビコマーシャルが増えています。ファンドラップとは、投資一任運用のひとつで、顧客のリスク許容度や投資目的、家族構成など複数の質問項目に回答すると、それに最適と思われる複数の投資信託を用いてポートフォリオを組んでくれるというものです。
また運用が開始した後も、その時々の相場環境などに応じて金融機関の担当者がアドバイスしてくれ、ポートフォリオの見直しを継続的に行っていきます。
ラップには「包む」という意味があるのですが、ファンドラップの場合、ポートフォリオの見直しに際して、個々の投資信託を新たに買い付ける際の購入時手数料はかからず、ポートフォリオ全体の資産規模に応じて、一定率のフィーを徴収するという形を取っています。保有しているポートフォリオ全体を包む形でのフィー体系になっていることから、「ラップ」という名称が付けられています。
ファンドラップの付加価値は、金融機関の担当者から直接、アドバイスを受けることができ、かつ運用中の顧客の資産状況の確認、金融環境などが大きく変化した時のポートフォリオの見直しなども行ってくれる点にあります。預けてある資産額に対してかかるフィーは決して安いものではありませんが、こうした付加価値があるならば、十分に元が取れるだろうと思っている利用者もいるかもしれません。
ファンドラップのコストについて簡単に説明しておきましょう。前述したように、対象ファンドの範囲内で買い付けた投資信託については、購入時手数料がかかりません。
しかし、保有している投資信託の信託報酬に加えて、「投資一任契約に係る報酬」という名のコストがかかってきます。これはラップサービスを提供する金融機関が受け取る報酬です。金融機関によって料率は異なりますが、年1.0%弱が取られます。保有している投資信託の信託報酬も併せると、徴収されるフィーの水準は意外と高くなります。
こうした点に加え、最近、もうひとつ大きな問題点があることを知りました。
証券会社が提供しているファンドラップで、2000万円程度を運用している知人がいて、たまたま、ポートフォリオの中身を見せていただく機会がありました。ざっと8本程度のアクティブ型投資信託で、ポートフォリオを構築していました。
前述したように、ファンドラップでポートフォリオを構築する場合は、顧客の投資目的、家族構成などを金融機関の担当者がヒアリングしたうえで、リスク許容度を診断します。
そのうえで投資提案書が作成され、顧客に提示されます。顧客は投資提案書の中身に納得できたら、投資一任契約を金融機関との間で結び、運用がスタートします。私の知人はそれほど積極的にリスクを取って大きく増やしたいという意向がなく、やや保守的なポートフォリオでの運用を要望したそうです。
しかし、この1年、運用成果が上がらないどころか、ポートフォリオには200万円程度の評価損が生じていました。ファンドラップである以上、さまざまな資産に分散投資しているはずですし、そのなかに海外の株式や債券に投資するファンドがあれば、この円安で為替差益が出ているはずです。加えて2023年は、日本株も大きく上昇しました。
そうであるにも関わらず、なぜ200万円もの損失が生じているのでしょうか。
理由は簡単です。
第一に、保守的な運用を希望したため、海外債券に投資するファンドが結構な比率で組み入れられていました。それも、為替リスクをヘッジするタイプです。
2022年から世界的にインフレ傾向が強まり、海外では米国をはじめ、ユーロ圏でも金利が大幅に引き上げられました。金利が上昇すると債券価格は下落します。したがって、債券を組み入れているファンドの運用成績は下落します。
もっとも、2022年から2023年中にかけて、外国為替市場では急激な円安が進みました。米ドルは円に対して30%程度、ユーロも対円で24%程度、強くなっています。為替ヘッジをしないタイプのファンドだったら、為替だけで結構大きなリターンが得られ、債券価格の下落分を相殺できたはずなのですが、為替ヘッジしたタイプでポートフォリオを構築していたため、債券価格の下落をそのまま受けてしまいました。
そして、これが最大の問題点だったのですが、なぜか8本のファンドのうち4本が、単体のファンドで複数資産に分散投資するバランス型ファンドだったのです。
これはどう考えてもおかしなポートフォリオです。バランス型ファンドを4本組み合わせれば、分散投資効果が高まるとでも言いたいのでしょうか。基本的に、運用コンセプトが似通ったバランス型ファンドを複数組み合わせたところで、得られるリスク分散効果など、たかが知れています。
この知人のポートフォリオを見た時、ファンドラップのポートフォリオ診断能力について、大いに疑問を覚えました。複数のバランス型ファンドでポートフォリオ構築して、「リスクを抑えた運用をしています」などとするのは、あまりにも安直です。
ファンドラップなどという大仰なサービスを使わなくても、個人の分散投資なら、世界株式に分散投資する株式型投資信託と預貯金があれば、両者の配分比率で十分にリスクコントロールは可能です。運用はシンプルが一番だということを、頭の片隅に入れておいてください。
鈴木雅光(すずき・まさみつ)
金融ジャーナリスト
JOYnt代表。岡三証券、公社債新聞社、金融データシステムを経て独立し(有)JOYnt設立し代表に。雑誌への寄稿、単行本執筆のほか、投資信託、経済マーケットを中心に幅広くプロデュース業を展開。
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