投資信託の繰上償還リスクが高まるかも知れない
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新NISAが間もなくスタートします。そんなこともあって、投資信託に対する関心も高まってきていますが、これから投資信託を買うのに注意すべき点は、繰上償還リスクだと思います。
繰上償還とは何か。投資信託には信託期間といって、あらかじめ運用期間を定めて運用されます。たとえば信託期間が10年だとすれば、運用がスタートして10年後に償還日を迎え、その時点で運用資産をすべて売却し、受益者が保有している受益権口数に応じた償還金を支払って、そのファンドの運用が終わります。
あるいは信託期間を無期限にしているファンドもあります。
繰上償還とは、これ以上の運用継続は困難と考えられる状況に直面した時、信託期間の途中で運用を打ち切り、償還させることです。これは信託期間を無期限にしているファンドも例外ではありません。
もちろん一方的に償還されることはありません。繰上償還させるという判断を投資信託会社が下した時は、まず既存の受益者に対して、投資信託会社のホームページなどで繰上償還するという公告が行われます。
その公告が出された後、一定期間、今度は繰上償還に反対する人の決を採ります。この時、何も意思を表明しなければ、繰上償還に同意したものとみなされます。こうして繰上償還に異議を唱えた受益者の議決権の3分の1を超える反対があった場合には、繰上償還が見送られます。
このような仕組みになっているのですが、これまでなぜか繰上償還はほとんど行われてきませんでした。その結果、純資産総額が1億円に満たないような、運用されているのかどうなのかが全く分からない、ゾンビファンドが急増しました。
2023年10月末時点で運用されている公募投資信託(追加型)の中から、ETF、DC専用、SMAラップ専用、ブルベア型を除いて、純資産総額別に運用されている投資信託の本数を調べてみました。具体的には、以下のようになります。
純資産総額 | 投資信託の本数 |
---|---|
1兆円以上 | 5本 |
1000億円以上1兆円未満 | 122本 |
100億円以上1000億円未満 | 922本 |
50億円以上100億円未満 | 483本 |
30億円以上50億円未満 | 469本 |
10億円以上30億円未満 | 926本 |
1億円以上10億円未満 | 1072本 |
1億円未満 | 332本 |
以上の合計が4326本ですが、このうち2330本が純資産総額30億円未満です。一般的に純資産総額が30億円を下回ると、繰上償還リスクが高まると言われていますから、本来ならいつ繰上償還されても不思議はないのですが、なぜか1億円以上10億円未満のファンドが1072本、1億円未満のファンドが332本も運用されています。
なぜ繰上償還されないのかというと、販売金融機関が繰上償還してもらいたくないのだと考えられます。
投資信託は信託報酬といって、日々、残高に対して一定率の報酬が、投資信託会社や受託銀行、そして販売金融機関に落ちます。
このうち投資信託会社はファンドを運用しなければならないので、それに対する対価として信託報酬を受け取るのは当然ですが、問題は販売金融機関です。販売金融機関は、投資信託を販売するに際して購入時手数料を受け取っており、これに加えて信託報酬の一部も受け取っているのです。
しかし、受益者がファンドを保有している間、販売金融機関に課せられている業務は大したものではありません。つまり大した働きをしていないのにも関わらず、投資信託会社が受け取っているのと同率に近い信託報酬を受け取っているのです。
たとえ純資産総額が1億円に満たないファンドであったとしても、そのまま運用を続けてくれれば、黙っていてもお金が販売金融機関の懐に落ちてきます。仮に純資産総額が1億円でも、年間の信託報酬率が0.5%だったら、50万円が黙っていても入ってくるのです。1本あたりから得られる信託報酬は少額でも、本数が増えればそれなりの金額になります。そのため、販売金融機関は繰上償還に反対していると考えられるのです。
しかし、これからはそうもいかないでしょう。投資信託の運用本数が多過ぎるという批判が増えていますし、業界最大手の野村アセットマネジメントが、今後、運用ファンドの本数を半減させるという意向を示したからです。そうなれば他社も追随してくるでしょう。
繰上償還が普通に行われるようになると、少なくとも純資産総額が30億円、あるいは50億円に満たないような投資信託は、いずれ繰上償還されることになります。繰上償還されたら、長期投資を前提に買ったファンドでも、強制的に償還されてしまいます。その償還時の基準価額が購入時に比べて下げていたら、評価損が実現損になってしまいます。
これからは繰上償還リスクに直面しないようにするためにも、純資産総額が100億円以上あるようなファンドを選ぶ必要性が高まりそうです。
鈴木雅光(すずき・まさみつ)
金融ジャーナリスト
JOYnt代表。岡三証券、公社債新聞社、金融データシステムを経て独立し(有)JOYnt設立し代表に。雑誌への寄稿、単行本執筆のほか、投資信託、経済マーケットを中心に幅広くプロデュース業を展開。
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