鈴木雅光の「奔放自在」

株主優待が減っている

2023/11/29

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みなさんは「株主優待」を利用されていますでしょうか。株を購入する動機で多いものが「株主優待」ですが、ここ最近の傾向として株主優待を廃止する企業が増えています。今回のコラムでは、株主優待の今後を考察します。

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株式に投資する動機はさまざまですが、相変わらず多いのが株主優待投資です。「優待投資家」を称して、外食やレジャー、なかには普段着る服も含めて株主優待で賄っている強者もいます。

改めて説明するまでもありませんが、株主優待とは、企業が自社製品やサービスについて、株主に理解を深めてもらう狙いで、それらを割引価格、もしくは完全な無料で使用できる権利を、株主に対して付与するものです。たとえば外食産業なら食事券、映画配給会社なら映画の無料券、食品会社なら自社製品の詰め合わせセット、などが送られます。

株主優待が行われる理由は、前述したように、株主に自社製品・サービスを知ってもらい、会社を好きになってもらうことだけではありません。

これは特にBtoB企業に見られるのですが、株主数の確保を目的にした株主優待です。

上場企業の場合、上場審査基準で株主数が問われます。東京証券取引所の市場区分見直しによって、大分、条件は変わりましたが、かつて東証1部市場に株式を上場するためには、2200人の株主が必要でした。

しかし、BtoB企業のように法人向け製品やサービスを供給している企業の場合は、個人投資家からの知名度が低いため、大口で投資する機関投資家が株主の中心になる傾向が強く、株主数で上場維持基準に引っ掛かるケースがあります。

そのため、クオカードやお米など、自社とは全く関係のない物品を配布して、個人投資家を増やそうとしているケースも、かつては見受けられました。

とはいえ、1992年当時の株主優待実施企業の数は251社しかありませんでした。当然、当時もBtoB企業はたくさんあったわけで、それを考えると、BtoB企業だから知名度を上げるために株主優待を行ったとは一概に言えません。

恐らく、ここには株価の推移と関係があるのだと思います。1991年に実体経済のバブルが崩壊し、日本経済は長期低迷に入っていきました。その間、株価も大きく下落し、個人の株式離れが加速しました。

その煽りは、個人投資家の知名度が低いBtoB企業ほど大きかったと推察されます。こうしたなかで、個人株主の関心を引くために、株主優待を実施する企業が増えていったのではないでしょうか。

しかし、ここ最近の傾向としてはむしろ、株主優待を廃止する企業が増えています。

株主優待実施企業の数は、1992年以降も年々増加傾向をたどり、実施企業数では2019年がピークで1532社になりました。この時、上場企業全体に占める株主優待実施企業の割合は、37.2%にまで上昇しました。

ところが、その後は徐々に株主優待実施企業の数は減少しており、2021年は1487社、2022年は少し回復して1490社でした。

まだ微減という感じなので、これから減少傾向をたどっていくのかどうかは、何とも言えません。ただ、上場企業が株主優待を廃止するための環境が整いつつあるのは事実です。

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第一に、上場維持基準にある株主数が、市場区分の見直しによって大幅に緩和されました。現在、プライム市場が800人以上、スタンダード市場が400人以上、グロース市場が150人以上となっています。上場維持に必要な株主数が大幅に減ったため、特にBtoB企業にとっては、個人株主を増やすために苦し紛れの株主優待を設定する必要が無くなりました。

第二に、株主に対して公平に利益還元を行うためです。株主優待は、株数を多く保有していればたくさん受け取れるというものではありません。上限が設けられているケースが多く、ある程度の株数を超えてからは、どれだけ保有株式数が多くても、株主優待の内容は変わらなくなります。

そもそも株主優待には、小口投資家を増やして株主数を確保したい、という意図があります。そのため、小口投資家に有利な条件が設定される傾向があるのです。

しかし、それでは大口投資家にとって不利になりますし、外国人投資家からすれば、株主優待を受け取ったとしても、その権利を行使する機会がありません。

この点、配当で還元すれば、株主は保有している株式数に応じて配当金が支払われるため、株主間の公平性を維持できます。

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しかも、東証の音頭取りでPBR1倍割れの是正を求められている企業にとっては、内部留保を配当に充てて、PBRやROEを向上させたいところです。

こうした理由から、株主還元策として、株主優待よりも配当金を重視する傾向が強まりつつあるのです。

株主優待ラヴァーにとって、株主優待の廃止は望ましくないことですが、純粋に投資効率を考えれば、株主優待を廃止した分、配当金を増やしてもらった方が、理に適っています。配当金であれば、再投資に回すことによって、さらに投資している資産を大きく増やせる可能性を高めるからです。そもそも株主優待をもらっても、自分にとって何の役にも立たないものだったら、単なる宝の持ち腐れになります。

株主優待を廃止して配当金を増やす企業が増えて行けば、そちらの方がむしろ投資家にとっては望ましい株主還元の形だと思います。

鈴木雅光(すずき・まさみつ)

金融ジャーナリスト
JOYnt代表。岡三証券、公社債新聞社、金融データシステムを経て独立し(有)JOYnt設立し代表に。雑誌への寄稿、単行本執筆のほか、投資信託、経済マーケットを中心に幅広くプロデュース業を展開。


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