預貯金の実質金利はマイナス
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日本の貯金事情が大きく変わりつつあります。インフレが進行し、預金だけでは資産価値を守るのが難しくなっています。本記事では、この新たな経済状況に適した資産運用戦略について詳しく解説します。
~預貯金に置いておくと資産価値が目減りする時代に~
家計の金融資産の総額は、日銀の資金循環統計によると、2023年3月末時点で2043兆円あります。これらに占める金融商品別の残高ならびに比率を示すと、以下のとおりになります。
現金・預金 | 1107兆円 | 54.2% |
債務証券 | 27兆円 | 1.3% |
投資信託 | 90兆円 | 4.4% |
株式等 | 226兆円 | 11.0% |
保険 | 378兆円 | 18.5% |
年金・定型保証 | 156兆円 | 7.7% |
その他 | 59兆円 | 2.9% |
一目瞭然ですが、現金・預金が圧倒的に多額であることが分かります。その理由は、これまでの日本人が、資産運用を真剣に考える必要が無かったからだと考えられます。
過去を振り返ると、私たち日本人の多くは、これまでインフレリスクをヘッジするための資産運用をする必要性がほとんど無かったのかも知れません。
今、後期高齢者になっている団塊の世代は、戦後生まれの人たちばかりです。この人たちは今に至るまで、インフレに勝つための資産運用を真剣に考えなくても、さほど支障を来すことなく日常生活を送ることが出来たはずです。
終戦直後のハイパーインフレを除き、日本の物価が大きく上昇したのは第一次オイルショックの時でした。1973年の日本の消費者物価指数は11.5%、1974年は23.2%、1975年は11.7%というように、2ケタの上昇率が続いたのです。
しかし、1970年代の半ばまで、郵便局が扱っていた定額貯金(10年物)の利率は10%超もありましたし、加えて給料の伸び率が非常に高かったのです。具体的な数字を挙げて比較すると、1970年から1975年までの消費者物価上昇率が年平均11.4%だったのに対し、現金給与総額の伸び率は年平均18.7%でした。
また1975年から1980年までを見ても、消費者物価指数の上昇率が年平均6.7%だったのに対し、現金給与総額の上昇率は年平均7.9%だったのです。つまり物価はどんどん上がったけれども、それを上回る率で給料も増えたのです。だから、インフレによって実質的に収入が減り、貧しい思いをするという経験をせずに済んだのです。
1990年以降、日本はバブル崩壊による金融不安、長期的な不景気によって株価は暴落し、会社員の給料がほとんど伸びなくなってしまいました。これは国税庁の「民間給与実態統計調査」を見ると明らかです。
日本人の平均給料は、1996年に472.1万円でピークをつけました。そして2018年は433.3万円へと減少しています。平成に入ってからの30年間、私たち日本人は、給与の面では豊さを実感できなかったのです。
それでも多くの日本人が、資産運用で保有資産を増やそうという気にならなかったのは、デフレ経済に直面していたからです。2015年基準の消費者物価指数(総合)の数字を見ると、1989年度の89.3に対し、2018年度のそれは101.4ですから、平成30年間における年平均で見ると、消費者物価は年0.45%しか上昇していません。
このように、過去の物価と所得、あるいは預貯金の金利動向などを見ると、多くの日本人が預貯金にお金を置いたままにしている理由が分かる気がします。わざわざリスクを取って高いリターンを求めなくても、現金のまま持っているか、あるいは銀行の預貯金に置いておくだけでも、資産価値は目減りせずに済んだのです。
では、今はどうでしょうか。
消費者物価指数のうち、生鮮食品およびエネルギーを除いた総合(コアコアCPI)の前年同月比を、2021年4月から追ってみると、2022年3月までの約1年間は、前年同月比がマイナスになるデフレ状態が続いていました。2022年1月に至っては、前年同月比で▲1.1%です。
この間、1年物定期預金の利率がどうだったのかをみると、たとえば2022年1月に満期を迎えた定期預金の利率は0.003%でした。つまり2021年1月から2022年1月までの1年間を通じて、定期預金に預けて得られた利息は0.003%でしたが、この間、物価が1.1%も下落したため、実質ベースで見た預金利率は1.103%にもなったのです。つまり預金の利率が限りなくゼロに近い状態でも、物価が下落したため、年1.103%の利回りで運用できたのと同じ経済効果が得られたのです。
しかし、ご存じのように2022年4月以降は物価水準が徐々に上昇してきました。コアコアCPIの前年同月比は、2022年4月は0.8%だったのが、同年6月には1.0%となり、同年10月には2.5%となりました。その後もコアコアCPIの前年同月比は上昇し、2023年7月のそれは4.3%です。
では、この間の1年物定期預金利率はどうだったのかというと、2022年7月に預入、2023年7月に満期を迎えたもので年0.004%です。
つまりこの間、持っている資産の大半を定期預金に預けていた人は、そこから0.004%の利息しか受け取れなかったにも関わらず、物価水準は4.3%も上がってしまったのです。ということは、実質ベースで見た預金利率は▲4.296%になってしまったのです。
もっと平たく言うと、資産の全額を定期預金に預けていた人は、この1年間で資産価値が4.296%も目減りしたことになるのです。
これは、表面上は元本保証を謳っている預貯金ですが、実質的に元本割れを起こしたのと同じことになります。だからこそ私たちは、インフレをヘッジできる金融資産での資産運用をしなければならないのです。
鈴木雅光(すずき・まさみつ)
金融ジャーナリスト
JOYnt代表。岡三証券、公社債新聞社、金融データシステムを経て独立し(有)JOYnt設立し代表に。雑誌への寄稿、単行本執筆のほか、投資信託、経済マーケットを中心に幅広くプロデュース業を展開。
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