空室率高まる米国オフィス REITの運用成績が悪化
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パンデミックが一段落して、オフィスには人が戻ってきました。インバウンドも解禁され、街には外国人観光客が溢れています。 ただ、やはりそうはいっても働き方の多様化が進むなか、完全な出社型には戻し切れず、必要に応じてリモートワークを認めるという会社が多いようです。
ニッセイ基礎研所のレポートによると、2020年4-5月の緊急事態宣言下では、出社率が大幅に低下し、主要都市だと東京が36.1%、大阪40.1%、名古屋40.4%、福岡41.7%、札幌50.0%、仙台50.2%となりました。
その後、新型コロナウイルスが第5類にダウングレードされ、日常の生活行動が正常化してきたとはいえ、2023年4月最終週の出社率は、東京76.2%、大阪81.3%、名古屋84.2%、福岡79.5%、札幌82.1%、仙台83.6%ということです。つまりコロナ前の水準には戻っていないのです。
当然、出社率が元の水準に戻らず、加えて多様な働き方のもと、オフィス需要が後退するとなれば、構造的にオフィス空室率が高まるリスクが生じてきます。目下、不動産業界は2023年問題と言われる、オフィスの供給過多問題に直面しており、空室率の上昇と共に、賃料低下が懸念されています。
ただ、日本はまだマシな方かも知れません。6月時点における都心5区のオフィスビル空室率は6.48%ですから、まだリーマンショック後のピークである2010年8月の9.17%には達していません。
問題は、日本よりも米国の不動産市場です。特にオフィスの市況は壊滅的で、たとえばサンフランシスコでは、人員削減やリモートワーク、テクノロジー企業の撤退などでオフィス市況は打撃を受け、オフィス空室率は34%にも達していると報じられています。
とはいえ、サンフランシスコなど遠い世界の話。空室率が30%を超えたといっても、それが日本に何の影響があるのかという声もありそうですが、実は大いに影響があります。
特に不動産投資信託(REIT)を組み入れた投資信託を保有している個人は、自分がどういうタイプの投資信託を購入したのか、中身をチェックすることをお勧めします。
不動産投資信託を組み入れたREIT型投資信託の運用成績を見ると、東京証券取引所に上場されているJ-REITを組み入れているREIT型投資信託は、過去1年間の騰落率平均が▲2.4%です。
これに対して、米国のREITを組み入れている投資信託の場合、過去1年の騰落率平均は、為替ヘッジ無のタイプで▲6.4%ですが、為替ヘッジ有のタイプだと▲17.4%になっています。
この運用成績の比較で、2つ言えることがあります。
第一に、米国のREITを組み入れて運用している投資信託の場合、特にオフィス不動産市況の悪化を受けて、運用成績が日本のREITを組み入れて運用しているものに比べて、明らかに劣後していることです。
第二に、ここが大いに注意しなければならない点ですが、為替ヘッジをしているタイプの方が、為替ヘッジ無のタイプに比べて運用成績が大幅に悪化していることです。
為替ヘッジとは、為替の先物予約などを用いて、一定期間後までドル安が進んだとしても、現時点で一定期間後にドルを売る際の為替レートを確定させることを意味します。
たとえば現在の為替レートが1ドル=140円だとして、1年後にドルを売る時の為替レートを1ドル=135円で確定させておけば、1年後の実際の為替レートが1ドル=130円になっていたとしても、135円でドルを売ることができます。
為替ヘッジ有の場合、このように円高が大きく進んだとしても、現時点のレートから金利差分を差し引いたレートで外貨を売る確約を付けられるため、為替差損が広がるリスクを気にせずに済みます。
そのため、本来ならリスクが小さくて済むはずの為替ヘッジ有のタイプが、なぜ為替ヘッジ無のタイプに比べて損失が大きくなったのでしょうか。
それは、この間の為替レートが大きく円安に振れたからです。
上記の運用成績は2022年5月末から2023年5月末にかけての1年間のものですが、この間のドル円がどうなったのかというと、2022年5月末が1ドル=128円前後で、2023年5月末が1ドル=140円前後でした。この間、ドル円だけで9.4%程度の為替差益を得ることができたのです。つまり為替ヘッジ無のタイプは、この為替差益が騰落率に含まれるため、為替ヘッジ有のタイプに比べて騰落率のマイナス分が少なくて済んでいるのです。
逆に、為替ヘッジ有のタイプは、為替差益が得られなかった分だけ、ファンドに組み入れられている米国REITの値下がり分の影響をもろに受けたことに加え、為替ヘッジを行う際に支払う為替コストが、リターンを大きく悪化させることにつながりました。
為替コストとは、金利水準の高い国の通貨を一定期間後に売る際の為替レートを確約する際に支払わなければならないコストです。
現状、日本の金利水準に比べて米国の金利水準の方が高いため、一定期間後に米ドルを売るためのレートを先物予約する場合、両国の金利差分をコストとして支払わなければなりません。このコストも運用成績に加味されるため、為替ヘッジ有のタイプは一段と運用成績の低迷を余儀なくされたのです。
鈴木雅光(すずき・まさみつ)
金融ジャーナリスト
JOYnt代表。岡三証券、公社債新聞社、金融データシステムを経て独立し(有)JOYnt設立し代表に。雑誌への寄稿、単行本執筆のほか、投資信託、経済マーケットを中心に幅広くプロデュース業を展開。
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