感情に支配された投資判断はやめよう
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セゾン投信の前会長が退任させられた後、解約を呼びかける声が広まりましたが、実際の資金流出は限定的であり、運用会社のメッセージにも信頼を寄せるべきです。さらに、基準価額の上昇も見られ、感情に任せた解約は大きなリターンを逃すことになります。冷静な判断をして資産運用の目的を念頭に置きましょう。
セゾン投信の前会長が、5月末の取締役会で退任させられるという人事が発表された直後、SNSなどを通じて「もはやこれまでのセゾン投信では無くなった。解約しよう」などという呼びかけが、前会長に近いと思われる金融の専門家たちの間で広まりました。
実際、セゾン投信が設定・運用している「セゾン・グローバルバランスファンド」や「セゾン資産形成の達人ファンド」、「セゾン共創日本ファンド」の日々の設定・解約を口数ベースで計算すると、特に6月に入ってからは、解約口数が増えたようにも見えますし、6月29日に産経新聞に掲載された記事の中にある、前会長のインタビュー記事によると、「企業価値の毀損が起きており、数十億円の解約が出ている」と、前会長も解約がかなりのペースで増えていることを匂わせるコメントを出しています。
では、本当に数十億円規模の資金流出が生じているのでしょうか。
ちょっとした計算をしてみました。追加型投資信託の場合、ファンドの資産規模は組入資産を時価評価した純資産総額が表示されています。純資産総額は、追加設定による資金流入、解約による資金流出以外に、組入有価証券の値動きによっても増減します。つまり解約額が追加設定額を上回ったとしても、組入有価証券が大きく値上がりすれば、純資産総額は減少ではなく、増加することもあり得るのです。
ということで、純資産総額の増減で解約が増えているかどうかを判断することはできません。そこで簡単な計算をすることで、日々の受益権口数を割り出します。その口数が前日比で増加していれば資金流入、減少していれば資金流出が生じていると考えられます。
実際に計算してみました。前日比の口数の増減を算出し、それに日々の1口あたり基準価額をかければ、概算ですが、日々の資金流出入額を計算できます。そこで、前会長の退任が報じられた6月1日から7月4日までの資金流出入額を計算すると、以下のようになります。
セゾン・グローバルバランスファンド・・・・・・1億1628万4771円(資金流入)
セゾン資産形成の達人ファンド・・・・・・9億9814万8723円(資金流入)
セゾン共創日本ファンド・・・・・・1722万1677円(資金流入)
これらの数字を見ても分かるように、解約がどんどん増えて資金が流出しているのとは、ほど遠い状況であることが分かります。
もちろん、これらの数字は追加設定による資金流入と、解約による資金流出の差を示したものなので、解約が全く生じていないというわけではありません。解約は当然ありますが、その金額に比べて、まだ追加設定による資金流入額の方が大きいということです。
では、解約した人はどうだったのでしょうか。あくまでもSNSに寄せられたコメントですが、「前会長がいないセゾン投信には興味がない。解約します」といったことを書いている人も少なからずいて、そういう人はきっと解約したのでしょう。
ただ、ここで思うのは、本当に解約するという行動が正しかったのかどうかということです。
少なくともセゾン投信は、前会長の退任報道が流れた後、ホームページを通じて「これまで通りの運用を行います」というメッセージを出しています。
これについて「そんなこと何とでも書ける」などと、穿った見方をする人もいそうですが、ここで出されたメッセージに反するような行動を取った結果、お客様との信頼関係が崩れたりしたら、それこそ解約が殺到して運用難になることを誰よりも知っているのは、運用会社自身です。
したがって、ここに出されたメッセージは、基本的に信頼できるものと捉えるのがベターだと思いますし、そうであれば解約などせずに、保有を継続するべきでしょう。そもそもセゾン投信は、長期保有を前提にした投資信託会社ですし、経営トップの退任人事程度の話で解約を騒ぎ立てるのは、あまり合理的ではありません。
それに、前会長の退任が報じられた6月1日から7月4日にかけて、セゾン投信が運用している3ファンドの基準価額は、マーケットが順調であることも反映して、着実に上昇しています。それぞれの1万口あたりの値上がり益を計算すると、
セゾン・グローバルバランスファンド・・・・・・1274円高(6.17%高)
セゾン資産形成の達人ファンド・・・・・・2533円高(7.32%高)
セゾン共創日本ファンド・・・・・・679円高(5.94%高)
となっています。つまり、前会長の退任報道の直後に解約してしまった人は、この間の値上がり益を完全に取り損ねたことになります。それも、セゾン投信が「これまで通りの運用を行います」というメッセージを発信しているにも関わらず、「前会長がいないセゾン投信には興味がない。解約します」といった、ほんの一時の感情に任せた行動で、これだけのリターンを取り損ねてしまったのです。
前会長の熱烈ファンは、それでも良いと思うのかも知れませんが、資産を増やすという資産運用本来の目的からすれば、感情に支配された投資判断は「一利なし」という典型的なケースといっても良さそうです。
鈴木雅光(すずき・まさみつ)
金融ジャーナリスト
JOYnt代表。岡三証券、公社債新聞社、金融データシステムを経て独立し(有)JOYnt設立し代表に。雑誌への寄稿、単行本執筆のほか、投資信託、経済マーケットを中心に幅広くプロデュース業を展開。
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