今回ばかりは「NISAの口座をつくるのが面倒」とは言っていられないかも知れない
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昨年末、2023年度税制改正大綱が発表され、2024年1月から始まる新しいNISAの内容が知られることになった。
簡単に内容を説明しておくと、現行の一般NISAとつみたてNISAは、2023年12月をもって終了となる。
ただし、一般NISAの非課税期間は最長5年なので、2023年12月末までに購入した分については2027年12月末まで非課税運用ができる。またつみたてNISAの非課税期間は20年間なので、同じく2023年12月末までに積み立てた分については、2042年12月末まで非課税運用が可能になる。
そのうえで、2024年1月からスタートするのが新NISAだ。「シンNISA」とか「新しいNISA」とか、さまざまな言われ方をしているようだが、来年1月からは装いも新たにしたNISA制度がスタートする。
本稿では、これを新NISAとする。
新NISAは、現行の一般NISAやつみたてNISAに比べて、大幅に使い勝手が改善された。生涯投資枠といって、最大1800万円という枠が設けられたのと同時に、つみたてNISA枠で年間120万円、成長投資枠で年間240万円までの合計360万円という枠は設けられているものの、現行のNISAに比べて大幅に非課税枠が拡大した。
それと同時に、一般NISAで最長5年、つみたてNISAで最長20年とされた非課税期間が無期限化され、かつ投資可能期間の恒久化も実現した。つまり1800万円という生涯投資枠の範囲内であれば、期限を気にすることなく、いつでも非課税枠を活用できるということだ。
それと共に、非課税枠を使って投資した後、利益確定などで売却もしくは解約した後、その枠を再利用できるようにもなった。現行の一般NISAやつみたてNISAの場合、使った非課税枠の再利用は出来なかっただけに、非課税枠の再利用が可能になった点は、大いに利便性を高めてくれるだろう。
さて、現行NISAについては、「いちいち口座を開くのが面倒」と言って利用していない人も結構いたはずだ。
「非課税枠を有効活用しないのは損だ」という意見もあるが、現行の一般NISAは年間の非課税枠が120万円しかない。数百万円、数千万円単位の資金を動かす投資家にとって、120万円という年間非課税枠によって得られる効果は微々たるものでしかない。
また、つみたてNISAは公募投資信託でしか積立投資が出来ず、しかも年間の非課税枠が40万円しかないとなれば、やはりアクティブな投資家は利用しない。
そういう事情で、利用者が全国民的にならなかった現行NISAだが、これからはいよいよ、ある程度の資金を運用している投資家は、新NISAの口座を開かざるを得なくなるだろう。
なぜなら新NISAという非課税枠の大盤振る舞いの引き換えに、金融所得課税の強化が行われる可能性があるからだ。複数の金融関係者からも同様の声が聞かれた。
金融所得課税の強化とは、たとえば預貯金利息や投資信託の値上がり益および分配金、特定口座を用いて株式を売買した際の売却益と配当金に対する20.315%の税率を引き上げようというものだ。これについては岸田首相が自民党総裁選で主張し、市場関係者から大顰蹙(だいひんしゅく)を買った。
投資を促すために新NISAの非課税枠が拡大されるのに、一方で金融所得課税が強化されるとしたら、矛盾するのではないかという意見もあるが、よくよく考えてみれば、仮に金融所得課税が強化されたとしても、大半の個人にはあまり関係ない話かも知れない。二人以上世帯であれば、夫婦で新NISA口座を開くことで、合計3600万円もの非課税枠を確保できる。
そのうえ、確定拠出年金も活用すれば、何歳から加入したのかにもよるが、さらに非課税投資枠を増やせるだろう。企業年金のない企業で働く人が30歳から個人型DCに加入した場合、掛金の上限は月額2万3000円。これを35年間かけ続ければ、総額は966万円だ。同じく企業年金のない企業で働く妻も同条件で加入していれば、夫婦で1932万円もの非課税枠になる。新NISAの非課税枠と合わせると、何と5532万円もの投資非課税枠を確保できるというわけだ。
恐らく、これだけの金融資産を持っている夫婦は、極めて少数だろう。つまり世の中の大半の人は、これだけの非課税枠があれば、投資に回せる資金の大半を非課税で運用できるようになる。したがって、金融資産で1億円以上を持っている、比較的裕福な層以外の、標準的な層からは、恐らく金融所得課税が強化されたとしても、反対意見は出て来ないと考えられる。
逆に言えば、新NISAを開設しなければ、標準的な貯蓄額しか持たない人たちの税率が上がってしまう。その意味でも、新NISAの口座は多くの人にとって必要不可欠になる可能性がある。
もうひとつ気になるのは、金融所得課税が強化されれば、ひょっとしたらこれまで散々言われ続けながらも実現しなかった「貯蓄から投資(資産形成)へ」の流れが起こるのではないか、ということだ。
金融所得課税の強化が、株式や投資信託だけを対象にするとは考えられない。恐らく預貯金利息に対する税率も、平等に引き上げられることになるだろう。
その前提に立てば、課税強化される預貯金に対して、株式や投資信託については1800万円の非課税枠が認められるのだから、貯蓄から投資(資産形成)への資金移動が、今度こそ実現するかも知れない。
いずれにしても、新NISAによって認められる1800万円の非課税枠がもたらすインパクトには注目しておきたいところだ。
鈴木雅光(すずき・まさみつ)
金融ジャーナリスト
JOYnt代表。岡三証券、公社債新聞社、金融データシステムを経て独立し(有)JOYnt設立し代表に。雑誌への寄稿、単行本執筆のほか、投資信託、経済マーケットを中心に幅広くプロデュース業を展開。
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