S&P500は本当にダメなのか?
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「S&P500は終わった」と言われても、冷静に検証すれば見えてくる本当の姿とは。厳格な銘柄選定基準、過去の予測と実際の乖離、そして安定的な成長の秘密。ゴールドマン・サックスのストラテジストの予測を丁寧に紐解きながら、インデックス投資の本質に迫ります。
過日、三菱UFJアセットマネジメントによって設定・運用されている「eMAXIS Slim米国株式(S&P500)」の純資産総額が、10月28日時点で、ETFを除く公募型投資信託のなかでは過去最大の純資産総額になったと報じられました。その額は5兆7696億円で、過去において最大だった「グローバル・ソブリン・オープン(毎月決算型)」の5兆7685億円を抜いたのです。
このファンドはS&P500という、米国の株価指数に連動する運用成績を目指してポートフォリオが組まれています。完全な100パーセントとは言いませんが、それに近い連動率で基準価額が変動します。
ただし、基準価額は円建てなので、仮にS&P500が値上がりしていたとしても、その間、円高が進んだ場合は、円建て表示の基準価額は下落、もしくはドル建てのS&P500に対して上昇率が劣後することもあります。これは為替変動が円建て基準価額に反映されるからです。
ところで、このS&P500に連動するインデックスファンドを保有している個人を、ざわつかせる報道がありました。それは、10月18日付でゴールドマン・サックスが発表した、同社ストラテジストのレポートです。
それによると、S&P500の今後10年における年率名目トータルリターンは3%に止まるということです。同レポートによると、過去10年のS&P500の年率名目トータルリターンは13%でしたから、それが3%になるというのは衝撃的です。S&P500に連動するインデックスファンドを保有している人からすれば、今後も持ち続けるかどうか悩ましいところでしょう。
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でも、これはあくまでも予想です。この予想は、ゴールドマン・サックスのチーフ米国株ストラテジストのデービッド・コスティン氏ですが、彼が書いた2022年11月21日付の顧客向けメールでは、「2023年のS&P500の年末目標を現在の水準に近い4000ポイントに設定した」ということでした。それが実際にはどうなったのでしょうか。
2022年11月25日時点のS&P500は、終値で4026.12ポイントでした。それが2023年の年末にはいくらになったのかというと、4769.83ポイントです。同水準どころか18.47%も値上がりしました。
また2020年3月に発表した予測によると、「11年続いた米国株式の強気相場は近く終了する」、「2020年の年央までに2450ポイントまで下落する」ということでした。2020年2月19日時点のS&P500は、終値が3386.15ポイントで、3月23日には安値で2191.86ポイントまで下落しています。
ところが、そこからS&P500は力強い上昇へと転じました。2020年の年央を6月末だとすると、その時点のS&P500は、終値で3100.29ポイントです。何と、コスティン氏の予測値に対して、S&P500は26.54%も上回ったのです。
このように、著名ストラテジストであるデービッド・コスティン氏の予測とはいえ、それがピタリと当たることはありません。マーケットの予測とは、その程度のものなのです。必要以上に悲観的にならなくても良いでしょう。
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近頃、ポジショントークなのかどうかは分かりませんが、「S&P500は高値圏にある。S&P500のようなインデックスの構成銘柄は玉石混交だ。インフレ局面では本当に強い企業しか生き残れない。だからアクティブ運用が有利なのだ」と言う意見を耳にします。
S&P500が現在、高値圏にあるのかどうかは、何とも言えません。それはまさに前述したデービッド・コスティン氏の予想と同じで、「当たるも八卦当たらぬも八卦」です。
ただ、「S&P500のようなインデックスの構成銘柄は玉石混交だ」という点は、果たして本当でしょうか。TOPIXはそれが当てはまるかも知れませんが、ことS&P500に関していえば、TOPIXよりもはるかに洗練されたインデックスであると考えられます。それは、S&P500の構成銘柄に採用される際の条件を見れば明らかです。
その条件とは、
- 米国を本拠地とする上場企業であること
- 時価総額が180億ドル以上
- 時価総額に占める浮動株比率が最低50%以上
- 半期の売買高が25万株以上
- 直近四半期が黒字
というものです。
特に直近四半期の決算が黒字であるという点が重要で、要はしっかり成長している企業でなければ、S&P500の構成銘柄には採用されないのです。そのくらい厳しい条件をクリアした企業群によって構成されているからこそ、S&P500は上昇し続けているのです。
もちろん、リーマンショックやコロナショックのような危機が生じた時は、それに応じてS&P500も大きく下落しますが、それを乗り越えて、これまで高値を更新し続けてきました。その理由のひとつは、やはり黒字決算企業を中心にして指数が構成されているからと考えられます。そうである以上、S&P500の構成銘柄が玉石混交とは言い難いですし、インデックス運用の時代は終わったなどとは、必ずしも言えないと思います。もちろん、これからはアクティブ運用の時代だと判断するのも、いささか早計に過ぎるのではないでしょうか。
鈴木雅光(すずき・まさみつ)
金融ジャーナリスト
JOYnt代表。岡三証券、公社債新聞社、金融データシステムを経て独立し(有)JOYnt設立し代表に。雑誌への寄稿、単行本執筆のほか、投資信託、経済マーケットを中心に幅広くプロデュース業を展開。
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