鈴木雅光の「奔放自在」

オフィス事情は回復しても低迷続きのJ-REIT 

2024/11/01

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東京のオフィス市況が徐々に回復してきています。
オフィスを中心とした不動産会社、三鬼商事のオフィスレポートによると、東京ビジネス地区(千代田区、中央区、港区、渋谷区、新宿区)の平均空室率は低下傾向をたどる一方、平均賃料は徐々に上向いてきています。

平均空室率の推移を見ると、2020年2月は1.49%まで低下していました。ほぼ空室がない状態です。ところがその後、コロナ禍が深刻化するなかで、大企業を中心にしてリモートワークに切り替える動きが広まり、オフィス需要が後退しました。なかには本社ビルを大幅に縮小した企業もありました。 

その結果、オフィスビルの空室率は大幅に上昇しました。2020年の夏場から徐々に上昇し始め、2022年8月、9月には6.49%になったのです。それと同時に、平均賃料は下落しました。2020年7月には、1㎡あたり2万3014円だった平均賃料は、2023年11月には1万9726円まで下落しています。 

そして、それが今、徐々に回復基調にあります。直近の2024年9月時点における平均空室率は4.61%まで低下し、平均賃料は2万126円まで上昇してきました。空室率は4カ月連続の改善、平均賃料は8カ月連続の回復です。米国のアマゾン・ドット・コムは社員を対象にして、週5日出社を義務付けるというニュースもあり、世の中は徐々にオフィス出社が日常化しつつあるようです。 

対して日本の場合、コロナ禍でも出社している社員は比較的多く、その点では、オフィス需要が大幅に落ち込むこともありませんでしたが、今後、米国で週5日出社が定着すれば、日本でも徐々にリモートワークは、緊急時でも業務が滞らないようにするための臨時措置的な位置づけになっていく可能性があります。それは同時に、オフィス需要が回復する可能性が高いことを意味しています。 

オフィス需要が回復へと向かえば、おもにオフィスビルを組み入れて運用しているJ-REITの相場回復も期待できます。 

ところがJ-REITの相場動向を示す「東証リート指数」の推移を見ると、オフィスビル市況は徐々に改善へと向かっているにも関わらず、一向に指数は上向いていません。 

東証リート指数のこれまでの推移を見ると、コロナ禍前の高値が2019年10月23日の2262.32ポイントで、それがコロナショックの2020年3月19日に1138.04ポイントまで急落しました。その後、2021年7月13日には2200.02ポイントまで回復したものの、そこから右肩下がりがダラダラと続き、2024年10月11日の終値は1701.70ポイントとなっています。 

現在、J-REITを取り巻く環境は決して悪くありません。たとえば平均の分配金利回りは、10月11日の終値をベースにした計算だと年4.89%もあります。今年に入ってから、金融政策の正常化によって長短金利ともに上昇傾向にあり、長期金利の利回りは0.950%になっていますが、それでもJ-REITの分配金利回りとの差は3.940%もあります。 

一般的に両者の金利差が3%あれば、J-REITが買われる傾向があるので、金利差は十分、J-REITが買いであることを示しています。 

しかし、それでもJ-REITが買われないのは、何か他の理由があるからでしょう。 

2025年問題と言われる、オフィスビルの大量供給が懸念されているからでしょうか。確かに、2025年は供給されるオフィスの床面積が増えます。しかし、2026年以降は大幅に減少すると見られているので、オフィスビル需要が大幅に悪化するとは思えません。 

ただ、ひとつ気になるのがオフィスビル系のJ-REITに組み入れられているビルのグレードです。オフィスビル系J-REITのポートフォリオを見ると、建築から30年以上が経過した物件が結構入っているのが分かります。鑑定評価額と取得価格を比較すると売却益が出る状態にはあるようですが、J-REITを長期保有する投資家にとって大事なのは、安定した分配金です。そしてJ-REITの分配金は、ファンドに組み入れられている物件の家賃収入を原資としています。 

ここ数年で東京都心の再開発が進み、グレードの高い物件が次々に建築されています。すると、築古になった物件に入居していたテナントが、新しく建築されたグレードの高い物件に移転するケースも増えてくると予想されます。 

そうなると、築古物件を組み入れているJ-REITの分配金の安定性が損なわれる恐れが生じてきます。これが案外、J-REITの上値を抑える要因のひとつになっていると考えられそうです。 

鈴木雅光(すずき・まさみつ)

金融ジャーナリスト
JOYnt代表。岡三証券、公社債新聞社、金融データシステムを経て独立し(有)JOYnt設立し代表に。雑誌への寄稿、単行本執筆のほか、投資信託、経済マーケットを中心に幅広くプロデュース業を展開。


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