鈴木雅光の「奔放自在」

投資信託の複利効果を疑う 

2024/09/13

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投資信託を長期保有する理由として、「複利効果が得られるから」と言う人がいます。
ファイナンシャルプランナー(FP)をはじめとして、いわゆる資産運用の専門家と言われている人の間でも、投資信託の複利効果は、金科玉条のごとく信じられていますが、本当でしょうか。

まず、言葉の間違いから指摘しておきましょう。 

投資信託の場合、「複利効果」という言葉自体が間違っています。複利効果は、一定期間に生じた利息を元本に加えて運用することで、基本的には預貯金などの確定利付き商品に用いられる概念です。確定利付き、つまり預入時に決められた一定の利率にそった利息が、満期時まで定期的に支払われる金融商品のことです。 

基本的に、定期的に支払われる利息は、そのまま現金で受け取る形になりますが、複利運用の場合、それを元本に組み入れて、さらに一定の利率で運用されます。運用期間が長くなるほど利息が元加されて元本が徐々に膨らむため、それを一定の利率で運用すると、それだけ利息も大きくなるという仕組みです。 

ちなみに、年利2%で100万円を10年間、単利運用した場合の元利合計額は120万円ですが、これを1年複利で運用すると、10年後の元利合計額は121万4000円になります。 

では、投資信託の場合はどうでしょうか。 

上記が複利運用の仕組みだとすると、投資信託に「複利効果」を当てはめるのは、いささか無理があります。 

なぜなら投資信託は確定利付き商品ではないからです。それどころか、元本保証すらされていません。したがって、投資信託に「複利効果」という言葉を用いること自体に無理があるのです。 

とはいえ、投資信託でも複利的な効果を狙った運用の仕方があります。それは、一定の運用期間中に生じた分配金でもって、同一ファンドを購入する「再投資」と呼ばれている方法です。これによって、複利的な効果が得られると言われていて、これを正確には「再投資効果」と称します。つまり投資信託で長期投資をする場合、再投資効果によって効率的に運用資金を増やせると言われています。 

しかし、これもいささか疑問を覚えます。理由は、投資信託が価格変動商品であり、基準価額が値下がりすることもあるからです。 

たとえば1年間運用した結果、1万円の元本が1万2000円になり、このうち2000円が分配金として支払われる場合、これを再投資すると、2000円の分配金に対して課税され、残りの金額で同一のファンドを購入します。 

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税金を20%で計算すると、再投資に回せる額は1600円になりますから、次の1年は投資元本1万1600円から運用スタートになります。 

しかし、翌年も同じように元本が増えるとは限らないのが投資信託です。1万1600円でスタートした運用が、1年後に9000円になってしまうこともあるのです。そうなったら、1年目に得られた、税引後1600円の運用収益も溶かしてしまうことになります。つまり預貯金における複利運用のように、確実に利息が元加され、雪ダルマ式に元本が増えていく保証はどこにもないのです。 

これをよく「年平均利回りが5%と仮定して、10年間再投資で運用すると、100万円が162万3000円になります」などという説明をする専門家もいるのですが、これは明らかに誤解を招く説明といっても良いでしょう。 

さらに言うと、再投資をする意味が本当にあるのか、という疑問が生じてきます。 

投資信託の分配金は、前述したように一定期間の運用で生じた運用収益が原資になります。これを分配金としてキャッシュアウトした後、それに課税して同一ファンドを買い付けるわけですから、受益者側としては再投資を続ければ続けるほど、課税分だけリターンが劣化していくことになります。 

これは投資信託の税制上、やむを得ないことではあります。なぜなら投資信託の場合、NISAで運用しない限り、分配金には課税されるというルールがあるからです。だからこそ、投資信託での運用はNISA口座を使う意味があるのですが、それも1800万円という上限があることからすれば、より大きな資金を投資信託で運用する人にとって、この課税ルールがある以上、再投資効果は「効果でも何でもない」、ということになります。 

本来なら、分配金をいっさい支払わず、運用によって信託財産が増えた分については、そのままファンド内で株式などに投資し、そのまま運用をし続ければ、収益に対して課税されない分だけ再投資効果を高めることはできますが、現状のように、キャッシュアウトした分配金に課税した後の残金で同一ファンドを買い付けるという形の再投資では、資産を増やす効果はほとんど期待できないといっても良いでしょう。 

鈴木雅光(すずき・まさみつ)

金融ジャーナリスト
JOYnt代表。岡三証券、公社債新聞社、金融データシステムを経て独立し(有)JOYnt設立し代表に。雑誌への寄稿、単行本執筆のほか、投資信託、経済マーケットを中心に幅広くプロデュース業を展開。


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