蟹瀬誠一コラム「世界の風を感じて」 kanise

アメリカたる所以

2025/02/21

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先日、某元駐米大使とアメリカの政治情勢について意見交換をする機会があった。彼は稀代のトリックスターであるドナルド・トランプの強みは4つあると分析していた。

それは、1)7700万人もの有権者の支持を獲得した大統領選での勝利、2)司法の掌握、3)トランプに忠誠を誓う補佐官・閣僚だけを集めた政権、4)「長いものに巻かれろ」で面従腹背する経済界だ。

確かにそのお陰でトランプは次々と大統領令や奇抜な政策を繰り出して内なる政敵を排除。お得意の脅しで世界をも翻弄している。調子に乗ったトランプの口からは、ロシアとの戦争はウクライナが始めたと根拠のない主張まで飛び出した。米ニュースメディアは朝から晩までトランプ関連の話題で事欠かない。

しかしトランプ再選の裏には今のアメリカにとってもっと深刻な脅威が潜んでいると私は思う。それは、軌道を外れた宗教国家アメリカで膨張する白人キリスト教国家主義(Christian nationalism)だ。

2021年1月6日に起きた流血の連邦議会議事堂襲撃事件を思い出してほしい。「俺たちは戦う。死にもの狂いで!」とトランプが煽った支持者たちは退役軍人、経営者、不動産業、州議会議員、元五輪選手、白人至上主義の極右グループなどなどほとんど白人の男たちだった。

「ジーザス(イエス・キリスト)」、「銃」、「トランプ」とプリントされたTシャツ姿が目立ち、掲げられた木枠には黒人差別の象徴とされるヌース(首吊り縄)が吊るされ、「イエス様が救ってくださる」と書かれたプラカードを振りかざす者もいた。

「暴徒たちからは残虐な暴力だけでなく人種差別的な侮蔑の言葉も浴びせられました」と、議事堂の警備をしていた黒人警官のハリー・ダン氏は当時を振り返った。

反乱を扇動したトランプはといえば、ちゃっかりホワイトハウスに戻ってテレビで惨劇を見ながらご満悦だったという。あきれてものが言えない。だが、あの前代未聞の事件はトランプだけでなく白人至上主義信奉者たちがアメリカの権力の座を奪う予兆だった。

暴動から4年、トランプは大統領執務室に戻り、外側にいた彼の信奉者たちは今や権力のど真ん中にいる。共和党はトランプ党と化して議会を牛耳り、白人キリスト教原理主義者たちの意向を優先する保守派が連邦最高裁判所を支配している。これでは権力の乱用を防ぐ三権分立など名ばかりだ。

「俺が大統領になれば、あなた達はこれまでにないレベルでその権力を使うことになるだろう」選挙中にテネシー州で行われた全米宗教放送協会の年次総会でトランプはそう豪語していた。その忌まわしい予言が的中してしまった。

歴史家でキリスト教ナショナリズムの権威であるクリスティン・コベス・デュ・メズ氏によれば、白人キリスト教国家主義者たちは「権力を掌握し、その権力を使って『キリスト教のアメリカ』を実現することを目指している」という。

第2次トランプ政権は「白人キリスト教民族主義を制度化し、信奉者を巨大な政治的権力の地位に就け、政府を変革するだろう」と警鐘を鳴らした。だがその警告も空しく、政治経験や能力に関係なく大統領に対する忠誠心の強さだけで閣僚が選ばれ、「闇の政府」とトランプ信奉者たちが敵視する官僚組織の解体を始めた。不法移民の大規模な国外追放を開始し、連邦政府でのDEA「ダイバーシティ(多様性)、エクイティ(公平性)、インクルージョン(包括性)」プログラムも撤廃した。

教育省の廃止を求め、伝統的家族主義への回帰を目指している。聖書を絶対視し、反同性愛、反中絶、反移民、反フェミニズムで、性別は男女二つに限定。これが彼らの描く”神に選ばれし自由の国”アメリカの姿なのだ。

そんな第2次トランプ政権の具体的な政策を裏から支えているのは老舗シンクタンク・ヘリテージ財団の超保守的な提言「プロジェクト2025」だ。トランプが就任直後から乱発している大統領令も多くはその提言に沿ったものである。

ひと言でいえば、大統領権限を拡大し、超保守的な社会観を浸透させ、アメリカを権威主義的な白人キリスト教国家に引き戻そうとしているのだ。20世紀初頭のセオドア・ルーズベルトやウッドロー・ウイルソン大統領は、第一次世界大戦を戦った民主主義の旗手として、自由、平等、社会的責任、国民の福祉などの理想を追求した。

第二次大戦終結や冷戦の始まりに関わったトルーマン大統領が描いたビジョンは、「他国と共存し、貿易を通して民主主義諸国を豊かにし、それによってアメリカ自身も豊かになり強くなる」という共栄共存主義だった。

だが、トランプはそんな世界観に無関心だ。勢いづく白人キリスト教国家主義の波に乗じて、誇張と巧みなレトリックで黒人やマイノリティに対する差別と移民への憎悪を加速させ、白人労働者層に「アメリカは白人による白人のための国家だ」という幻想を抱かせている。

19世紀初頭に新興民主主義国家だったアメリカを旅したフランス人思想家アレクシ・ド・トクヴィルの以下の言葉を誰も覚えていないのだろうか。

「アメリカが偉大なのはアメリカが善良であるからだ。善良でなくなれば偉大でもなくなる」

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プロフィール

かにせ・せいいち
蟹瀬誠一

国際ジャーナリスト
明治大学名誉教授
外交政策センター理事
(株)アバージェンス取締役
(株)ケイアソシエイツ副社長
SBI大学院大学学長

1950年石川県生まれ。上智大学文学部新聞学科卒業後、米AP通信社記者、仏AFP通信社記者、米TIME誌特派員を経て、91年にTBS『報道特集』キャスターとして日本のテレビ報道界に転身。東欧、ベトナム、ロシア情勢など海外ニュース中心に取材・リポート。国際政治・経済・文化に詳しい。 現在は『賢者の選択FUSION』(サンテレビ、BS-12)メインキャスター、『ニュースオプエド』編集主幹。カンボジアに小学校を建設するボランティア活動や環境NPO理事としても活躍。
2008年より2013年3月まで明治大学国際日本学部長。
2023年5月、SBI大学院大学学長に就任。
趣味は、読書、美術鑑賞、ゴルフ、テニス、スキューバ・ダイビングなど。

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