蟹瀬誠一コラム「世界の風を感じて」 kanise

類は友を呼ぶ

2024/11/18

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「トランプ大統領、ペンス副大統領、マチス国防長官が乗った飛行機が墜落した。助かったのは誰か?」

2016年にドナルド・トランプが大統領に選ばれた後、アメリカでそんな「なぞなぞ」がよく聞かれた。答えは「アメリカ国民」である。

それほどトランプは傍若無人な政治家だった。2016年に大統領に選ばれたのは、大目に見て“fluke”(まぐれ)か、ひどい間違いだったと片づけられたはずだった。なにしろ米国史上初めて2度も弾劾され、34件で有罪判決を受けた重罪犯、常習的な嘘つきで連邦議会議事堂を暴徒に襲わせた”rogue”(ならず者)だからだ。

2020年の大統領選でバイデン副大統領が勝利したとき、世界中で多くの人々の安堵のため息が聞こえた。

それにもかかわらず、アメリカは以前より年老いて今や下品な言動に歯止めがかからなくなったほら吹き男をふたたび大統領に選んでしまった。礼儀正しく善良なあなたはどうにも納得がいかないだろう。運が良かったのか。それもある。対抗馬のバイデンは選挙戦で致命的な醜態を晒して脱落したし、後継者は有権者にあまり知られていなかった黒人女性だった。

だが、選挙結果はアメリカが南北戦争前夜を彷彿とさせる醜い分裂国家であることを世界にさらけ出した瞬間でもあった。今や同国はデモクラシーではなくアノクラシー(民主主義でも独裁主義でもない中間的政治体制)状態だ。これで世界はまた不安と混乱のトランプワールドに逆戻りする。

しかもこれまでよりも過激になる。偏執狂で人一倍自己顕示欲が強いトランプのモットーは「やられたら、やりかえせ」だからだ。様々の罪状で彼を刑務所に入れようとした民主党政権に対するリベンジが始まる。

手始めにトランプは自分に忠誠を誓う保守強硬派だけをホワイトハウスに集め、連邦政府をトランプ色に染める。その執念は脅威のスピードで進んでいる第2次トランプ政権の人事をみれば一目瞭然だ。本来必要な審査プロセスなど無視されている。

例えば、次期司法長官には悪名高い極右の下院議員マット・ゲイツを指名し、政敵一掃を目論んでいる。ゲイツは未成年少女売春ネットワークの運営と違法薬物売買容疑で司法省と下院倫理員会の調査対象になっている札付きだ。司法副長官は裁判でトランプの不倫口止め裁判で弁護士を務めたトッド・ブランチだというから開いた口が塞がらない。

国防長官には政治経験皆無のFOXニュースのマッチョな司会者ピート・ヘグセスを指名したが、ヘグセスにもレイプ疑惑が浮上している。

さらに、こともあろうに国民の健康を守る更生長官に選ばれたのはケネディ家の超変人で反ワクチンの陰謀論者ロバート・ケネディJrだ。自分の脳に寄生虫がいたとか水の中の成分で人間もカエルのようにオスからメスに性転換すると信じている人物である。

政権の要である国務長官にはライバルからトランプ派に転向したマルコ・ルビオ上院議員を、そして中央情報局(CIA)長官には元国家情報長官を務めたジョン・ラトクリフをそれぞれ起用。ふたりとも対中強硬派だ。

この顔ぶれでは、アメリカ一国主義(MAGA)のトランプ政権は国連もNATO(北大西洋条約機構)も気候変動も軽視。露骨なイスラエル支持で中東に更なる混乱を招き、中国との技術・経済戦争は激化するだろう。

ウクライナは窮地に追い込まれる。強者を好むトランプはロシアのプーチン大統領と昵懇(じっこん)でウクライナ支援を縮小するからだ。ロシアの脅威が迫る欧州にとっては深刻な地政学的リスクとなる。

次期トランプ政権に関してもうひとつ大きな不安材料がある。それはテスラや宇宙ビジススペースXなどの創設者で大富豪のイーロン・マスクを新設の「政府効率化省」のトップに任命すると約束していることだ。

少し前までトランプを批判していたマスクだったが、保守的なバイデン政権に軽視されたことに対する反動から大統領選挙戦中にトランプの右派ポピュリズム(大衆迎合主義)へ急接近している。

その裏にあるのはテクノ独裁主義思想で連邦政府を再設計して彼の傘下の企業に巨大なビジネスチャンスをつくろうという思惑があるのではという声も聞こえる。それなら選挙期間中にトランプ陣営に1億1900万ドル(183億円)もの献金をしたことも頷ける。

マスクのテクノロジー帝国はすでに政府と深く絡み合っている。連邦政府は彼の大口顧客であり、NASAと国防総省がスパイ衛星やその他の衛星打ち上げのためにスペースXに年間支払っている金額は数十億ドルだ。

それだけではない。マスクはロシアのプーチン大統領や中国の習近平主席を始め、イタリアのメローニ首相、イスラエルのネタニアフ首相、インドのモディ首相など世界の専制的政治家とも親密な関係を築いているという。トランプ政権にしたたかに入り込んだ天才起業家からも目が離せない。

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プロフィール

かにせ・せいいち
蟹瀬誠一

国際ジャーナリスト
明治大学名誉教授
外交政策センター理事
(株)アバージェンス取締役
(株)ケイアソシエイツ副社長
SBI大学院大学学長

1950年石川県生まれ。上智大学文学部新聞学科卒業後、米AP通信社記者、仏AFP通信社記者、米TIME誌特派員を経て、91年にTBS『報道特集』キャスターとして日本のテレビ報道界に転身。東欧、ベトナム、ロシア情勢など海外ニュース中心に取材・リポート。国際政治・経済・文化に詳しい。 現在は『賢者の選択FUSION』(サンテレビ、BS-12)メインキャスター、『ニュースオプエド』編集主幹。カンボジアに小学校を建設するボランティア活動や環境NPO理事としても活躍。
2008年より2013年3月まで明治大学国際日本学部長。
2023年5月、SBI大学院大学学長に就任。
趣味は、読書、美術鑑賞、ゴルフ、テニス、スキューバ・ダイビングなど。

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