ドイツの政治変動、極右の台頭と民衆の反応
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寛容な難民政策で「欧州の良心」と呼ばれ、日本を追い抜いて世界第3位の経済大国になったドイツが今、極右勢力の台頭に脅かされている。
その象徴が極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」だ。2020年に10%足らずだった同党の支持率がこの3年で倍以上に急上昇し、政党別順位で2位にまで躍進。「ナチスの再来か」と国民の間で不安が高まっているのだ。
歴史をふりかえれば、ナチス犯罪という忌まわしい過去を持つドイツは戦後、ナチズムや極右思想を徹底的に排除。多くの国民がメルケル前首相のゆるぎない中道路線、ヒューマニズム、安定感を選択してきた。
ところが近年、続く移民・難民の流入、貧富の格差、ウクライナ戦争によるエネルギー危機や物価高などで国民の不満は爆発寸前に達している。
そんな国民感情を追い風に極右勢力が急速に台頭してきているのだ。彼らの主張は反移民・難民、反イスラム、反ユダヤ、EU離脱、排外的ドイツ国家主義など右翼ポピュリズムそのもので分かりやすい。
これに対し、中道左派のショルツ政権は銃規制強化、極右団体の資金凍結、極右活動家の出入国阻止などの対策を打ち出し、捜査機関や連邦憲法擁護庁はAfDを「極右団体の疑いのある政党」として監視を強めてきた。
そんな中、1月中旬に衝撃的ニュースが流れた。AfDのワイデル共同党首の最側近がネオナチ活動家らと昨年11月に大規模移民追放計画を謀議していたことを調査報道機関コレクティフが暴露したのだ。肌の色や出身地が異なりドイツ社会に「同化されていない国民」200万人を強制的にアフリカ北部へ送り込むという驚愕の企てだったという。
戦前のナチス政権下で立案されたアフリカ大陸南東のマダガスカル島にユダヤ人を大量追放する「マダガスカル計画」を彷彿とさせるものだった。たちまちドイツ全土で100万人をこえる大規模抗議デモが燃え上がった。これでAfDは失速かと思うと、どうもそうではないようだ。ドイツでは6月の市町村選挙と欧州議会選挙に続き9月には旧東ドイツの3つの州の議会選挙が行われる。地元メディアによれば、同地域でAfDがいずれの州でもキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)を抑えて第1党となる可能性が高いという。
前述の秘密会合には保守社党のキリスト教民主同盟(CDU)の右派党員も参加していたというから反移民感情の根は我々が想像する以上に深い。
東西ドイツ統合後、私は旧東ドイツで極右ネオナチの潜入取材をしたことがある。彼らはホロコースト(ユダヤ人大虐殺)を否定し、白人至上主義、移民排斥主義を信奉していた。秘密会合終了後「ジークハイル」(勝利万歳)と叫んでナチ式敬礼をする姿には背筋が寒くなった。そんな危険な過激思想が地下水脈のようにじわじわ全土に広がりつつあるのだ。
敗戦40周年の1985年にワイツゼッカー大統領が議会で行った名演説の一節を思い浮かべずにはいられなかった。
「過去に目を閉ざすものは、現在にも盲目となる。非人間的な行為を心に刻もうとしない者は、またそうした危険に陥りやすい」
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