トランプ再起訴
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ついに傍若無人な前米大統領ドナルド・トランプの落日を見ることになるのか。
不倫相手のポルノ女優へ口止め料支払いを巡ってニューヨーク州大陪審で起訴されてからわずか3ヶ月後、トランプは機密文書の不正保持・隠蔽、司法妨害など合わせて37件もの罪状で再びフロリダの連邦大陪審で起訴された。
「この起訴状全文を読んでほしい」
トランプの政府機密文書持ち出し事件の捜査を主導したジャック・スミス特別検察官は9日、米国民に対して記者会見で異例の訴えを行なった。
スミスはコソボ紛争での戦争犯罪を裁くオランダ・ハーグ特別法廷の首席検察官で、かつてはニューヨークの米連邦検事として汚職やテロ、金融犯罪などの捜査で凄腕を発揮した熱血漢だ。政治的に無党派だけに彼の発言には重みがある。
スミス検察官の短い言葉にはトランプに対する義憤と「犯罪の範囲と深刻さを理解してもらいたい」という検察官としての強い思いが込められていた。さっそく私もフロリダ州マイアミの連邦裁判所に提出された44ページの起訴状全文に目を通した。
起訴状の内容は緻密かつ衝撃的だった。トランプが密かにホワイトハウスから持ち出した文書の中には米国や他国の核兵器に関する情報や軍事作戦計画、中国やイランに関すると思われる機密性の高い情報、外国要人との会話(北朝鮮の最高指導者金正恩と思われる)も含まれていたという。国家安全保障を脅かす事態だ。
しかもそんな機密文書がフロリダのトランプ自宅兼高級リゾートの仕事部屋のほか、宴会場や寝室、浴室やトイレにまで無造作に積み上げられていたという。その証拠写真が起訴状に添付されている。
極めつけは大統領を退任した半年後の21年7月の音声記録だ。東部ニュージャージー州に所有するゴルフ場のオフィスで作家のインタビューを受けた際に、トランプは国防総省や米軍幹部が作成した文書を見せて「これは本当は見せちゃいけないけど・・・機密の情報だ。面白いだろう」と自慢している。文書が機密解除されていないことを彼自身が認識していた事を示す「動かぬ証拠」だ。
罪状はどれも深刻だ。有罪となれば、収監もしくは公職につく資格剥奪の可能性がある。スパイ活動法違反は最長禁固10年、司法妨害は最長20年だ。
事の深刻さは前大統領にも伝わったようだ。起訴状開示後にジョージア州で行なった支持者集会では「これは最後の戦いだ!」という異例の発言をしていた。やはり内心は脅威を感じているのだろう。
14日、フロリダ州マイアミにある連邦地裁に出廷した際も終始無言で弁護士が無罪を主張した。その後、裁判所近くに集まった支持者やマスコミの前で「邪悪な権力の乱用だ!」と検察を非難することは忘れていなかったが。
気になるのは裁判の行方だ。難癖をつけて裁判を遅らせるのはトランプの常套手段。判決が出るまでには時間がかかるだろう。来年11月の大統領選後になる可能性もゼロではない。
しかも今後の裁判を担当するのはトランプ大統領時に指名されたアイリーン・キヤノン判事だ。フロリダ地裁の裁判官の中からコンピューターシステムを使って無作為に割り当てられたといわれているが、彼女は過去にトランプにあまりにも有利な判断を下して物議を醸した裁判官だ。キヤノンの判断は正当な理由を欠くとして控訴審で取り消されているが、トランプの悪運の強さを感じさせる。
前大統領を一日も早く刑務所にぶち込んでほしいと思っている米国民は半数近くいる。だがその一方で、熱狂的にトランプを支持するキリスト教原理主義者や右翼保守層がいるのも分断国家アメリカの現実だ。彼らはスミス特別検察官の呼びかけに聞く耳を持たない。
「トランプと支持者の関係はカルトの教祖と信者の関係と同じだ」と分析する心理学者もいるくらいだ。
米国では起訴や有罪になっても大統領選に立候補できる。起訴状開示後もトランプが共和党最有力候補者とダントツの61%の支持率を保っているとCBSニュースは伝えていた。2位のフロリダ州知事のロン・デサンティスは23%だ。
しかし、今回ばかりはスミス特別検察官の起訴状にある「事実」がトランプの悪事を証明することになると私はみている。
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