米機密文書流出で見える機密管理
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今月、過去10年で最大規模とされる米国防省機密文書流出事件が明るみに出て世界を震撼させた。
なにしろ漏洩された機密文書にはウクライナ戦争に関する最高機密指定の内容ばかりか、米国の同盟諸国の内部情報まで含まれていたからだ。膠着状態にあるウクライナ戦争の先行きをさらに複雑化させる恐れがある。
しかし驚かされたのは、機密漏洩が小さなオンラインチャットルームから始まったことだ。しかも逮捕された容疑者は弱冠21歳の空軍州兵だった。
チャットルームは共通の興味を持つ者同士が密かにウェブ上で意見を交換する交流の場だ。今回問題となったのは“Thug Shaker Central”(すでに削除されている)で、参加者はもっぱら銃や軍の装備などに興味がある軍事オタクの若者たちだった。半数は海外からのメンバーだったという。
チャットルームの管理者だったジャック・テシェイラ容疑者は「OG」のあだ名で知られていて昨年から奇妙な略語や専門用語だらけのテキスト(恐らく機密文書を書き起こしたもの)を何度も投稿していた。だが難解すぎてほとんどのメンバーは関心を示していなかった。
それに腹を立てたテシェイラは今年2月、米軍の機密文書や地図などを密かに撮影して投稿したところ、それを10代のメンバーが勝手にビデオゲーム愛好者のプラットフォーム「ディスコード」に投稿したため、数千人規模のユーザーたちに拡散。それがツイッター、4chan,テレグラムなどのオンラインプラットフォームへと瞬く間に広まったようだ。
動機はというと、単に容疑者の自己満足だったらしい。
「機密情報を流出させることでOGは自尊心を満たして、仲間を繋ぎ止めておきたかったんだ」と、彼の友人のひとりが米メディアの取材でそう語っている。それが事実ならなんとも呆気ない幕切れだが、事は遙かに深刻だ。
「連邦捜査局(FBI)が本日午後に容疑者を逮捕した。・・・機密の国防情報の不正な持ち出し、保持、送信の疑いだ」4月13日、そう発表したメリック・ガーランド司法長官の表情は硬かった。それはそうだろう。機密情報の拡散が始まってから国防総省が事態を把握するまで1ヶ月もかかっていたから。
逮捕の様子を上空から撮影したテレビニュース映像をみたが、母親宅からTシャツに赤のハーフパンツ姿で両手を挙げて出てきた容疑者は抵抗する素振りをみせず、武装したFBI捜査員に手錠をかけられ車両に乗せられていた。
公開された経歴や地元メディアの報道によれば、テシェイラ容疑者は東部マサチューセッツ州の空軍州兵。2019年に空軍州兵に入隊し、階級は1等空兵でネットワーク保守・管理担当者だった。階級は低かったものの、技術スタッフとして国防省の機密情報へのアクセス権を持っていたという。空軍功労勲章を授与されている。
なぜ若い空軍州兵が国防関連の機密文書にアクセスできたのか。国防総省報道官パット・ライダー准将の説明によれば、米軍では軍人に「非常に早い段階から多くの責任を負わせるからだ」ということだったが、なんとも説得力が乏しい。
数ヶ月前から100点以上の機密文書・地図・写真などがリークされていたとことが分かっている。最初はウクライナ戦争に関する物が中心で、具体的には米軍の評価、両陣営の犠牲者数などだった。その後、中東や中国に関する機密情報や同盟国である韓国やイスラエルに関するものもリークされたという。
真っ先に頭に浮かんだのは2013年の「スノーデン」事件だった。米国家安全保障局(NSA)が、米政府が、テロ諜報活動の名のもと極秘に世界中のメール、チャット、SNSを監視し膨大な情報を収集していることを元CIA職員エドワード・スノーデンが命がけでメディアを通じて告発した。米政府からスパイ活動取締法違反等の容疑で訴追されたスノーデンは現在ロシアに亡命している。
同じく2000年代初めに起きた内部告発ウェブサイト「ウィキリークス」騒動も世界中を震撼させた。なにしろ最高機密情報のはずの外交文書が次々とネット上で公開されてしまったからだ。
もちろん各国政府は黙っていなかった。創始者で編集人のオーストラリア人ジュリアン・アサンジを世界の秩序を乱す悪者として追及。2010年12月、アサンジは英国当局に逮捕され、今も身柄を拘束されている。
ウィキリークスの活動をどう評価するかは意見が分かれているが、そもそも25万点もの外交文書が流出したのは米政府の情報管理体制に問題がある。それに公開された“機密”には政府にとって都合が悪いから隠しておいたというような情報が多く含まれていた。
ジャーナリズムの視点からみれば、スクープだ。大企業や政治家などの不正や疑惑がなかなかメディアに報道されず真実が闇から闇へと葬られてしまうことが多い。そんな事件解明の鍵を握るのが内部告発だ。警察でいうところの「タレコミ」、つまり情報提供者が直接に記者、新聞社、テレビ局に不正の証拠や証言を持ち込むことである。
例えば70年代にニクソン米大統領を辞任に追いやったあのウォーターゲート事件では、ディープスロート(当時はやっていたポルノ映画のタイトル)と呼ばれた政府高官が匿名でワシントン・ポスト紙に内部情報をリークしたことによってニクソン大統領の不正行為が暴かれ、辞任に追い込んだ。この場合は政府高官の政治的意図も後に明らかになったが。
日本でも1988年のリクルート事件などリークが発端で企業不祥事が暴露されたケースがある。だが、欧米と比べてその数はまだまだ少ない。会社=人生という終身雇用制度の下で情報提供者は「裏切り者」、「密告者」として会社と社会の両方から報復を受ける危険を覚悟しなければならないからだ。
もちろん外交上秘密にしておいたほうがよい情報というのも当然あるだろう。なんでもかんでも公開したのでは外交交渉をうまく進めることは出来ない。ポーカーゲームで最初から自分の手札を相手に見せているようなものだからだ。
“Loose lips sink ships(軽口は船を沈める)“ 第2次世界大戦中の米国では戦争広告評議会が作ったそんな宣伝ポスターがそこら中に貼られていた。英国では”Careless talk costs lives”(不用意に話したことで死者が出る)だった。
それほど戦時中の情報漏れは深刻な結果をもたらすという警句だ。
ところが電子化がすすんだウェブ全盛の今では厳重に管理されているはずの米軍機密文書でさえダダ漏れし、情報の真贋も見極めにくい。じつに恐ろしい時代だ。
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