蟹瀬誠一コラム「世界の風を感じて」 kanise

移り行くダボス会議のあるべき姿

2023/01/27

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■お知らせ■
2023年1月17日、編著として参加した書籍「2023年 野蛮の時代 – 米中激突第2幕後の世界 -」が創成社より出版されました。中国・共産党大会とアメリカ・中間選挙後の世界を展望した1冊で、欧州情勢をヨーロッパ在住の執筆陣がウクライナ侵攻の影響など分析しています。
プーチンにより野蛮化する世界、ウクライナとロシアは今後どうなっていくのか。そして、バイデンや習近平の目指す世界とは。4部構成、全19章からなる読み応えのある1冊になっています。

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世界の政財界のリーダーや集まることで知られる世界経済フォーラム(WEF)の年次総会、通称ダボス会議が1月16日から20日までの会期でスイス・アルプスのリゾート地ダボスで開催された。

マスコミも注目する華やかなイベントだ。しかし、今年は創設者のドイツ経済学者クラウス・シュワブ(84)は頭を抱えているに違いない。

「国際協調で世界をよくする」という高尚な目的とは裏腹に、ウクライナ戦争を巡る深刻な米ロ対決が暗い影を落としているし、善かれと思って推進してきたグローバリズムが世界各国で深刻な経済格差を生み出し、四方八方から攻撃の的になっているからだ。

主要先進7カ国(G7)首脳のうち、今回ダボスで講演したのはドイツのショルツ首相のみ。同氏はドイツ製戦車をウクライナに供与することを承認するかどうかで注目されている。

バルト海、北欧、東欧などウクライナに地理的に近い同盟国と欧州連合(EU)や北大西洋条約機構(NATO)の代表者は多数出席したが、かつて積極的に参加していたロシア財界の大物や政治家、学者の姿は当然のごとながら皆無だった。

その代わりといってはなんだが、ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアと同盟国ベラルーシは、ダボス会議が始まった当日に合同軍事演習を開始。ロシア軍がベラルーシ経由で新たな大規模攻勢をかけるのではとウクライナや西側諸国を不安に陥れている。

もう一方の米国はどうか。閣僚のヘインズ国家情報長官やウォルシュ労働長官、タイ通商代表部(USTR)代表は顔をみせたものの、「米国勢はどこにいる?」と参加者から不満の声が上がったほどホワイトハウスからは誰も出席しなかった。

18日、スイスのチューリヒで中国の劉鶴副首相と初の対面会談をしたイエレン財務長官もダボスに寄ることなくアフリカへ向かった。

米ロ首脳不在のダボスは、グローバリゼーションという経済の相互依存関係をいくら深めても世界の平和は担保されないという現実を突きつけたといえるだろう。

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そのうえ近年、ダボス会議に対する評判はあまりよろしくない。地球規模の環境問題や経済的不平等を議論するといいながら、実態は現実離れした「金持ちクラブ」で、商談の場にもなっているというのがその理由だ。

とりわけスウェーデンの若き環境活動家グレタ・トゥンベリは手厳しい。ダボス会議に参加している政財界のリーダーこそが「地球の破壊」に拍車をかけていると非難している。

それはそうだろう。気候変動や世界の貧困に懸念を表明する一方で、毎年高額の出資や参加費を支払う企業トップらは地球温暖化の元凶である二酸化炭素を大量に吐き出すプライベートジェット1000機以上でやって来て高級ホテルに滞在し、億万長者が主催する晩餐会や大企業のカクテルパーティで盛り上がっているのだから。

会期中、周辺の空港を利用するプライベートジェットが増えたためCO2排出量が4倍に増えたとオランダの環境シンクタンクCEデルフトが分析している。

2020年のダボス会議で、ジャーナリストで歴史家のルトガ-・ブレグマンはこの集まりを「アルプス山脈にはびこる偽善」と揶揄した。

それでも、グローバルな対話と意見交換の場を提供してきた同会議は一定の役割を果たしてきたと主宰者のシュワブは言う。

今年53周年を迎えたダボス会議はもともと欧州経済の活性化を目指したビジネスリーダーを中心とした集まりだった。やがて政治指導者も招かれるようになり、官民が連携してグローバルな諸問題について議論する場に変貌していったのだ。

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その間、歴史的な舞台にもなった。1988年には対立が激化したギリシャとトルコの両首相がダボスで会談して戦争が瀬戸際で回避された。89年には韓国と北朝鮮が初の閣僚級会合をダボスで開催している。90年には東西ドイツの首相が両国の統一について会談する場も提供した。

さらに言えば、米同時多発テロが起きた2011年には米国と米市民との連帯を示すため会場がニューヨークに移設されたこともあった。

 新型コロナウィルス大流行とウクライナ戦争を受けた今年のテーマは「分断された世界における協力」だった。

だが、実際には協力よりも分断が目立った。会議にビデオで参加したウクライナのゼレンスキー大統領は持ち前の演技力で武器供給の加速や国際社会の一致団結した支持を訴えて拍手喝采を浴びた。しかし集まった財界人の間ではウクライナ戦争はすでに最大の関心事ではなかったようだ。

「ウクライナに対して出来ることはすべてやったという雰囲気が漂っていた」と、アムネスティ・インターナショナル事務局長のアニエス・カラマールは米TIME誌の取材で語っている。やはり実利優先か。

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プロフィール

かにせ・せいいち
蟹瀬誠一

国際ジャーナリスト
明治大学名誉教授
外交政策センター理事
(株)アバージェンス取締役
(株)ケイアソシエイツ副社長
SBI大学院大学学長

1950年石川県生まれ。上智大学文学部新聞学科卒業後、米AP通信社記者、仏AFP通信社記者、米TIME誌特派員を経て、91年にTBS『報道特集』キャスターとして日本のテレビ報道界に転身。東欧、ベトナム、ロシア情勢など海外ニュース中心に取材・リポート。国際政治・経済・文化に詳しい。 現在は『賢者の選択FUSION』(サンテレビ、BS-12)メインキャスター、『ニュースオプエド』編集主幹。カンボジアに小学校を建設するボランティア活動や環境NPO理事としても活躍。
2008年より2013年3月まで明治大学国際日本学部長。
2023年5月、SBI大学院大学学長に就任。
趣味は、読書、美術鑑賞、ゴルフ、テニス、スキューバ・ダイビングなど。

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