ロシア帝国復活の兆し
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台湾問題や人権弾圧などで火花を散らす米中関係や新型コロナ変異種の感染拡大に世界の注目が集まる中、したたかに権力を拡大しているかつての超大国のリーダーがいる。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領である。
昨年夏の国民投票で78%が賛成した憲法改正によって2036年まで現職に留まることが可能になった”帝王”プーチン(69)は、同年12月には大統領経験者とその家族を生涯にわたって刑事訴追から免責する法案にも署名した。これで「終身大統領」としてやりたい放題できることになったわけだ。
「(ロシアの外交政策は)あらゆる方角に国を拡大させることだ」
そんなアレクセイ皇帝時代の外務大臣オルディーン・ナシチョキンの言葉どおり、2014年に黒海北岸のクリミアを併合(ロシアからみれば奪還)したプーチンはさらにウクライナの国境付近に10万人もの兵力を集結させている。
来年早々にも17万5000人規模の軍事侵攻を計画しているとの米メディアの報道もあり、緊張が高まる一方だ。なにしろプーチンは目的達成の為には武力行使に躊躇がない。
直近の狙いは北大西洋条約機構(NATO)に加盟したいというウクライナの望みを打ち砕くことだろう。だが、戦略家プーチンの野望はもっと大きい。かつてのソビエト連邦の復活なのである。
危機感を抱いたバイデン大統領は日本時間8日未明の米露首脳会談でロシアがウクライナに侵攻すれば「米国は同盟国と共に強力な措置で対応する」と警告を発した。これに対してプーチンは「国境で軍事力を増強しているのはNATOの方だ」と切り返したという。
なぜプーチンはそんなに強気でいられるのか。じつはその背景には国家保安委員会(KGB)の工作員から「皇帝」になった彼の揺るぎない国家観があるのだ。
プーチンは冷徹な国家主義者なのだ。彼の国家観のルーツはふたつの社会主義国の崩壊を経験したことにある。ひとつは、KGB工作員として1989年に東ドイツに駐在していた時に民主化運動によって政権が瓦解するのを目の当たりにしたこと。もうひとつは、ソ連に帰国後の1991年に誇り高き祖国が無様に崩壊してしまったことだ。反対勢力を打ち負かさなければ国家は崩壊すると彼は肝に銘じた。政治的対立に敗れた者は抹殺されると学んだのだ。
生き残るためには手段を選ばない。国内では新興財閥を傘下に収め、メディアを統制し、反対勢力を容赦なく弾圧した。海外では、クリミア併合でロシア国民の愛国心に火をつけ、2015年9月にはロシア史上初めて中東シリアへの直接軍事介入に踏み切って崩壊寸前に陥っていたアサド政権を救っている。
プーチンにはお気に入りのフレーズがある。それは「われわれに必要なのは偉大なる変革ではない。偉大なるロシアだ」だ。ロシアの経済力はいまや韓国程度の規模しかない。人口も日本とさして変らない。しかし侮ってはいけない。依然として米国を凌ぐ数の核兵器を保有する軍事大国であり、世界3位の石油産出量を誇るエネルギー大国だ。従来の同盟国であるインドとの軍事・エネルギー関係も強化している。
プーチンは情報操作や隠蔽の名人で、99%のロシア人より理性的だといわれている。新たなパワーポリティックスの時代に突入した今、米中対立だけでなく筋金入りの国家主義者が君臨するロシアの動向にも注意を払う必要がある。
思い返せば、プーチンと交流があり、惜しまれながら12月2日に政界を引退したアンゲラ・メルケル独大統領は見事にプーチンの姿を次のように言い当てていた。
「プーチンは別の世界に住んでいる」
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