蟹瀬誠一コラム「世界の風を感じて」 kanise

嵐が去って残されたものは?

2021/11/18

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スキャンダルにまみれ、白人ナショナリズムを扇動し、西側同盟を混乱に陥れた悪夢のトランプ政権がようやく1期4年で終わりを告げる。

民主党のバイデン候補が大統領選当選に必要な選挙人票の過半数270を大幅に上まわる306を獲得し、一般投票でも史上最多の7868万票を得たからだ。勝利が確定した当日、ワシントンのホワイトハウス近くの路上に集まった支持者たちがジョン・レノンの名曲イマジンの歌詞を「イマジン・ノー・トランプ」に替えて大合唱していたのが印象的だった。

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虚栄心の塊のトランプはもちろん敗北を認めない。「俺が大差で勝った!」とツイッターで叫んでいる。負け犬の遠吠えだ。往生際悪い。投票に不正があったと訴えて激戦州で法廷闘争に持ち込んでいるがことごとく不発。無効票が混じっていると主張して集計中止を求めたジョージア州の裁判では「証拠がない」と却下され、「不正を十分に監視できていない」と主張したミシガン州ではすでに集計が終わっているとして退けられている。弁護士たちも去っていった。それはそうだろう。証拠がないのだから。

正式には12月14日に行なわれる選挙人538人の投票でバイデン勝利が確定する。そして年が明けた1月20日正午に任期が切れるトランプ大統領一家の選択肢はふたつしかない。静かにホワイトハウスを去るか、シークレット・サービスによってつまみ出されるだけだ。

もちろん負けん気が強いだけでホワイトハウスに居座ろうとしているわけではない。大統領特権を失って民間人となったトランプには、司法妨害や選挙資金違反、脱税、偽証、セクハラなどによる訴追と4億ドル(約420億円)といわれる巨額負債の返済が待っているからだ。

ずる賢いトランプのことだから、すでに訴追を逃れる手段を思案しているに違いない。例えば、新大統領就任前に突如辞任し、大統領に昇格する腹心ペンス副大統領に恩赦を与えてもらう方法。あるいはトランプ大統領が自らを恩赦する手もある。前代未聞だが米国憲法の恩赦規定では明確に禁じられていない。さらには、熱狂的トランプ支持の極右勢力を宥めて平和的な政権移行を約束する見返りに新政権に罪を軽減してもらう裏取引も考えられる。強引なディール(取引)は不動産業時代からトランプの得意技だ。

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一方、バイデン新大統領にはならず者大統領が残したふたつの大仕事が待っている。ひとつはトランプが野放しにした新型コロナの猛威。もうひとつは米国社会に走る深い亀裂だ。疫病はコントロールできないが早晩終息する。だが米国の分断は建国前から脈々と続いており、今世紀に入ってさらに深刻化しているから厄介だ。トランプのような扇動家の野望を押さえ込んできた政党同士の古き良き「相互的寛容」と「自制心」が失われてしまった。

「分断ではなく結束を目指す大統領になる」バイデンは勝利宣言でそう誓った。しかし有権者の半数近くの7300万人以上が、傲慢で嘘つき、白人至上主義、排他主義、法律無視、誇大妄想、女性蔑視のトランプ大統領を就任から4年経った今も支持しているという現実が存在している。歴史家のコリン・ウッダードは名著『11の国アメリカ史』の中でこう述べている。

「ひとつのアメリカなどないし、これまで存在したこともなかった」

アメリカが生んだトランプ大統領という「熱病」の正体は建国以来の歴史に深く刻まれた異なった価値観や憎悪なのだ。バイデン政権になっても消えるものではない。

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プロフィール

かにせ・せいいち
蟹瀬誠一

国際ジャーナリスト
明治大学名誉教授
外交政策センター理事
(株)アバージェンス取締役
(株)ケイアソシエイツ副社長
SBI大学院大学学長

1950年石川県生まれ。上智大学文学部新聞学科卒業後、米AP通信社記者、仏AFP通信社記者、米TIME誌特派員を経て、91年にTBS『報道特集』キャスターとして日本のテレビ報道界に転身。東欧、ベトナム、ロシア情勢など海外ニュース中心に取材・リポート。国際政治・経済・文化に詳しい。 現在は『賢者の選択FUSION』(サンテレビ、BS-12)メインキャスター、『ニュースオプエド』編集主幹。カンボジアに小学校を建設するボランティア活動や環境NPO理事としても活躍。
2008年より2013年3月まで明治大学国際日本学部長。
2023年5月、SBI大学院大学学長に就任。
趣味は、読書、美術鑑賞、ゴルフ、テニス、スキューバ・ダイビングなど。

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