厄介な自由と独立の象徴
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「サタデー・ナイト・スペシャル」と聞いて皆さんは何を思い浮かべるだろうか。日本では差し詰めレストランの週末サービスかテレビのバラエティ番組だろう。
しかし銃乱射事件が相次ぐ米国では違う。護身用の小型拳銃の俗称だ。マフィアが土曜日の夜に酒場で酔っ払って喧嘩騒ぎを起こした際に隠し持った小さな口径の安物銃を使ったことからその名前がついたそうだ。別名「ジャックガン(がらくた銃)」。
とくに60年代の土曜日にはこの種の銃で撃たれた負傷者が続々と病院に担ぎ込まれた。医師たちは「サタデー・ナイト・ラッシュアワー」と呼んだ。なんとも物騒な話だが、銃社会アメリカならではの事だ。銃規制が厳しい日本に住んでいる私たちには想像できない。
このほかに、拳銃はイーコライザー(equalizer)とも呼ばれる。強者と弱者を平等にするものという意味だ。たしかに銃を使えばか弱い女性でも屈強な男をなんなく倒すことができる。
「なんてこった、この国の銃暴力はもう疫病だ!国家の汚点だ!」
今月8日、ホワイトハウスの中庭に集まった記者団に対して政権初の銃規制策を発表したバイデン米大統領は青筋を立ててそう発言した。
それはそうだろう。3月にジョージア、コロラド、カリフォルニアの各州で、そして4月にはサウスカロライナ州、テキサス州で銃乱射事件が相次いだからだ。複数の女性を含む28人が死亡した。人々の怒りと不安の声を連日全国ニュースが伝えられている。非営利団体「ガン・バイオレンス・アーカイブ(GVA)」によると、今年に入ってからだけでも全米で150件以上の銃乱射事件が発生しているという。
それだけ酷いと国民は全員諸手を挙げて「バイデン頑張れ」となるかと思うとじつはそうならない。多くのアメリカ人にとって銃所有権は自由と独立の象徴であるため、厳格な銃規制は政治的リスクが極めて高いのだ。
今回発表された規制内容を見ると、ネット上で入手できる部品で製造され追跡が難しい「ゴーストガン(幽霊銃)」の取り締まりや、銃口を安定させる装置の登録義務付けなどが柱。やはり極めて限定的だ。
しかも規制措置は国民の武器保有の権利を侵害するものではないとバイデン大統領は何度も釘を刺していた。
確かに合衆国憲法修正第2条には「規律ある民兵は、自由な国家の安全にとって必要であるから、市民が武器を所有し、また携帯する権利は、これを侵してはならない」と銃保有の権利が認められている。
しかし、本来この条項が認める武器所有は、理不尽な政府に抵抗するための権利としてのみだった。それが今ではお構いなしでぶっ放す。推定4億丁の銃が巷に氾濫しており、トランプ大統領が就任した2017年に至っては過去半世紀で最多の4万人近くが銃撃で死亡した。これでは銃を向ける相手が違うだろう!
しかも、これまで乱射事件で使われた凶器の多くはアソルト・ライフルと呼ばれる連発銃。狩猟や護身用ではなく戦闘用武器だ。それでも有力政治家たち、特保守系は銃規制には極めて消極的。アメリカ最大のロビー団体である全米ライフル協会(NRA:会員約400万人)からたんまり政治資金をもらっているからだ。国民の命より金というわけである。何処の国も政治家は似たり寄ったりで恥を知らない。
「銃を持った悪い奴らに対抗するには善人も銃を持てばいい」
米国銃所持者協会(GOA、会員数30万人)会長で元共和党下院議員ラリー・プラットがテレビ番組でそう話したことを私は今でも覚えている。悪いのは銃ではなくそれを使う人間だという銃規制反対論者の決まり文句だ。
その発言に、英国出身の人気司会者ピアース・モーガンは切れた。
「私の国、イギリスでは銃で死ぬ人はほとんどいません。銃がないからです!あんたは本当に愚劣な男だ!」
よく言った!
私は心の中で拍手をしたが、モーガンには勝ち目はなかった。テキサス州の保守系ジャーナリストがモーガンの国外追放を求める署名運動を始めると、なんと10万人以上の署名が集まった。国民の多数が銃規制強化には賛成しているものの、銃所持禁止には消極的だからだ。
これで彼の番組は視聴率急落で消滅。ただ国外追放は免れた。合衆国憲法修正第1条で言論の自由が認められているからだ。なんとも皮肉な銃規制論争の結果である。今日も米国のどこかで銃声が響いている。
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