蟹瀬誠一コラム「世界の風を感じて」 kanise

彼は今、何を語るのだろうか

2021/03/18

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その男とは激論を覚悟していた。私は当意即妙の生放送を得意としているが、彼の場合は突然どんな話しが飛び出すか予測がつかない。世間の反発の可能性や公安調査庁の監視の目もある。なにしろあれだけの大事件に関与していたのだから。

事件とは13人が死亡、5800人以上が負傷した「地下鉄サリン事件」のことだ。男は、犯行を行なった武装カルト教団オウム真理教の元幹部上祐史浩氏である。

今から26年前の1995年3月20日。通勤ラッシュ時の午前8時頃,東京霞ヶ関を通過する地下鉄丸ノ内線、日比谷線、千代田線の3路線の車両でほぼ同時に猛毒の神経剤サリンが散布された。口から白い泡を吹きながら駅構内から次々と運び出される乗客たち。防護服と防毒マスク姿で慌ただしく動き回る捜査員や自衛官。けたたましく鳴り響く救急車のサイレン。

現場は思い出しても身震いするような阿鼻叫喚が広がっていた。なにしろ化学兵器サリンが平和な大都会の真ん中で無差別に使われた前代未聞のテロ攻撃である。現場は大混乱し、衝撃は瞬く間に世界へ広がった。

教祖だった麻原彰晃(本名:松本智津夫)をはじめ13人の幹部や実行犯にはすでに死刑が執行されている。だから上祐氏は未だ謎が残る教団の中枢を知る数少ない生き証人だ。

事件直後から教団の広報担当として連日ワイドショーやニュース番組に出演して教団の関与を激しく否定していた姿は今も目に焼き付いている。「ああ言えば上祐」とさえ揶揄された。同氏は95年10月、有印私文書偽造の容疑で逮捕起訴され懲役3年の実刑を受けた。出所後はオウム真理教の後継団体であるアレフの代表になったが内部対立から脱会。2007年5月に新団体「ひかりの輪」を設立している。

なぜあんな凶悪事件を起こしたのか? 資金源は?今欧米で広がる陰謀論とオウムのマインドコントロールとの共通点は? そんな疑問に思いを巡らせながら3月某日夕刻、私が編集主幹を務めるウェブニュース番組『オプエド』のスタジオに入った。

新型コロナ流行のため上祐氏とはリモートでの対論となったが、まず驚いたのは彼の拍子抜けするほど穏やかな物腰だった。そして現在はオウム信仰から完全に脱却し、教祖の麻原彰晃は人格障害者だったと切って捨てた。

代表を務める「ひかりの輪」(信者数約150人)は特定の教祖や宗派を信仰せず、仏教の思想や瞑想法、心理学を学ぶ教室だという。被害者支援機構と賠償契約を締結し外部監査委員会も設けている。

しかし彼の言葉を素直に受け入れることは正直まだ私には難しかった。以前に別の国際的なカルト教団の取材をした経験があり、洗脳を解くことがいかに難しいかを実感していたからだ。一度だけだったが、上祐氏の口から麻原に敬意を表わす「尊師」という言葉が漏れたことがあった。

公安調査庁は「麻原の意志に従い、また、麻原の影響から脱していない。いわゆる麻原隠しをしている」として、アレフやひかりの輪など3団体の観察処分を今年1月からさらに3年間延長している。

1000億円とも言われたオウムの資金源も未だに不透明だ。そのことを問いただすと、上祐氏は入信者に布施として差し出させた資産やパソコンショップの売り上げなどを挙げた。しかしその程度で化学兵器開発や海外から武器調達ができたとは考えにくい。当時は暴力団への覚醒剤密売が噂された。だがそれを知るキーパーソンだった教団幹部村井秀夫は1995年に暴力団員に刺殺されてしまっている。まさに死人に口なしだ。上祐氏は暴力団との繋がりは知らないと主張したが、教団が入信者に覚醒剤などの薬物を投与していたことは認めた。

オウム幹部には理系の高学歴者が多かった。村井は大阪大学理学修士。実行犯の豊田亨は東京大学物理学専攻修士、廣瀬健一は早稲田大学理工学部応用物理学科を首席で卒業。慶応大学医学部卒業の林郁夫は優秀な心臓外科医だった。

彼らに共通していたのは何かと問うと、上祐氏からは「エリートならではの現実社会に対する絶望感」という答えが返ってきた。彼自身も早稲田大学大学院から宇宙開発事業団(現在のJAXA)に就職している。だが麻原の「世界戦争が起きる」という誇大妄想の陰謀論に引き込まれて出家したという。

カルト集団は恐怖や薬物などを巧みに使って他人の人生観や世界観を根底から覆してしまう。いちど洗脳されてしまうとそれを解くのは並大抵のことではない。オウム真理教のような狂気と幻想は、格差と不安が広がる現代社会でさらに増幅している。1月に米首都ワシントンの連邦議会議事堂を襲撃した熱狂的トランプ支持者の多くが信奉する陰謀論「Qアノン」などその最たる今そこにある危険だ。

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プロフィール

かにせ・せいいち
蟹瀬誠一

国際ジャーナリスト
明治大学名誉教授
外交政策センター理事
(株)アバージェンス取締役
(株)ケイアソシエイツ副社長
SBI大学院大学学長

1950年石川県生まれ。上智大学文学部新聞学科卒業後、米AP通信社記者、仏AFP通信社記者、米TIME誌特派員を経て、91年にTBS『報道特集』キャスターとして日本のテレビ報道界に転身。東欧、ベトナム、ロシア情勢など海外ニュース中心に取材・リポート。国際政治・経済・文化に詳しい。 現在は『賢者の選択FUSION』(サンテレビ、BS-12)メインキャスター、『ニュースオプエド』編集主幹。カンボジアに小学校を建設するボランティア活動や環境NPO理事としても活躍。
2008年より2013年3月まで明治大学国際日本学部長。
2023年5月、SBI大学院大学学長に就任。
趣味は、読書、美術鑑賞、ゴルフ、テニス、スキューバ・ダイビングなど。

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