戦う孔雀
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「戦う孔雀」がまた囚われの身になってしまった。
といっても動物園の話しではない。日本でもすっかり有名になったミャンマーの民主化運動家でつい先日まで国家最高顧問だったアウン・サン・スーチー女史のことである。
このところ彼女とは口も聞かないほど険悪な関係になっていた国軍最高司令官のミン・アウン・フライン将軍が2月1日に突如軍事クーデターの暴挙におよび、スー・チー女史をはじめ数百人の活動家を拘束して全権を掌握したと宣言してしまった。夜間外出禁止令も発令され、インターネットや軍営放送以外のテレビニュースは遮断されているという。
ミャンマーは1962年から2011年までの半世紀近く軍事政権の恐怖政治に支配されてきたアジアの仏教大国だ。しかし2015年の総選挙でスー・チー女史が率いる与党・国民民主連盟(NLD)が圧勝、初の文民政権が誕生した。欧米の制裁も緩和され、少数民族迫害問題はあるものの、経済も回復基調で国際的に評価が高まっていた。そんな矢先の暴挙だった。
反民主的なクーデターを起こせば欧米から厳しく非難され経済にも悪影響が出ることは百も承知だろうと思うのだが、権力の亡者はけっこう理にかなわないことを平気でやる。なにしろ執念にとりつかれているから見境がない。
じつは、民政移管後も国軍は強固な政治的権力を維持してきた。国軍最高司令官は議会全議席の4分の1を任命する権限を持ち、国防大臣、内務大臣、国境大臣の3つの要職も指名できると憲法で定められているからだ。外国籍の家族を持つ人物は大統領に不適格という規定も英国人と結婚しているスー・チー女史を国家元首にさせないためだ。
それをいいことにフライン将軍ら軍幹部は少数派イスラム教徒ロヒンギャを残虐に弾圧し、さまざまな経済的利権で私腹を肥やしてきたといわれている。それなら文句はないのではと常人はかんがえる。だがこの将軍にはメラメラと燃える野心があった。今年夏の任期切れ後に次期大統領になるという野望だ。
ところがその夢が吹っ飛ぶ出来事が起きた。昨年11月の総選挙で国軍が支援する連邦団結発展党(USDP)がNLDに大敗してしまったのだ。激怒したフライン将軍は「総選挙で不正が行われた」という根拠なき理由でクーデターを企て実行に移したのである。これで自身が引退する必要がなくなりスー・チー女史を押さえ込めると思ったのだろう。なんだか「不正選挙だ!」と叫んで過激な支持者に連邦議会議事堂を襲撃させた傍若無人なトランプ前米大統領を彷彿とさせる。
だがそれも誤算だった。なぜなら国民の大多数がスー・チー女史を「私たちの母」と呼ぶほど敬愛しているからだ。その結果が全土で野火のごとく燃え広がった数万人の抗議デモである。
国軍は各地で装甲車を展開して脅したが、そんなことでデモ隊は怯まない。なにしろ彼らのリーダーは、軍政による幾度もの自宅軟禁に耐えてノーベル平和賞も受賞している「戦う孔雀」だからだ。
ミャンマーでは2007年にも大規模な流血の反政府デモが起きた。多数の僧侶も参加したため僧衣の色から「サフラン革命」と呼ばれた。サフランの花言葉は「歓喜」そして「過度をつつしめ」「乱用するな」だ。
その花言葉とは裏腹に、また流血の惨事が繰り返されるかもしれない。
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