蟹瀬誠一コラム「世界の風を感じて」 kanise

新型コロナ対策がトランプ再選を揺るがす

2020/04/21

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「俺は正直者だ」

そう言い放って米国大統領に当選した自己中のほら吹き男ドナルド・トランプが思わぬ伏兵に再選の道を阻まれている。新型コロナウイルス感染だ。

そんなもの「ある日、奇跡が起きたように消えるから心配ない」「政府は事態を完全に掌握している」と当初うそぶいていたトランプだったが、3月に入って感染が全米で深刻化すると「大変なことになるとずっと前から思っていた。パンデミックだ。誰よりも前から俺はパンデミックになると感じていた。・・・20万人の死者がでるぞ」とお得意の手の平返し。

それならなぜもっと早く対策をとらなかったのかと記者から突っ込まれても「お前らこそフェイクニュースだ」と記者を名指しで罵倒した。拙書『ドナルド・トランプ世界最強のダークサイド・スキル』(プレジデント社)をお読みいただければわかるが、トランプは無知だが直感的に自分が有利になるように話を変えるワル知恵の持ち主だ。

就任以来3年間でなんと1万6千回以上もデマを連発してきた。その目的はたたひとつ、再選である。これまで幾多の悪事を働いてきたトランプにとって逮捕・起訴を逃れる道は再選しかないからだ。

ところが米国の感染者数・死者数が世界最大となった今、トランプ陣営は露骨な”absolute authority, no responsibility”(絶対権力と無責任)戦略に切り替えている。

3月13日、大統領公邸のレジデンスとウエストウイングに囲まれた美しい庭園ローズガーデンに現れたトランプはついにこう言い放った。

「俺にはいっさい責任がない!」

日頃から大統領の支離滅裂、大言壮語、嘘八百に慣れっこのはずの記者団もこれにはあ然。老舗の米月刊誌ザ・アトランティックは「この言葉がたぶん彼の大統領としての墓碑銘になるだろう」と痛烈に皮肉った。つまりコロナ禍によってトランプ再選の望みは絶たれたというわけだ。

医療現場の崩壊状態を指摘されると、トランプは「遅れた制度を前政権から引き継いだせいだ」と前任のオバマ大統領に責任をなすりつけた。科学研究予算や疾病予防管理センター(CDC)の予算を大幅に削減したのは自らの政権だったくせに!

4月の記者会見では、コロナ蔓延の責任は発生源の中国と世界保健機関(WHO)にあるとしてWHOへの拠出金停止を発表。さらには、全米での感染拡大はニューヨークやカリフォルニアなどの民主党州知事の不手際だとし、大統領には各州の知事たちに行動制限(ロックダウン)解除を命令する「全面的権限がある」と吠えた。もちろん憲法は大統領にそんな権限を認めていない。だがこれがトランプ流の脅しなのだ。

最近の世論調査によると、トランプが再選されると考える米国民はついに過半数を割り、オバマ前大統領とサンダース上院議員の支持を得たジョー・バイデン民主党候補が肉薄している。コロナ感染によって医療保険制度改革に有権者の関心が集まっているのもバイデンに追い風だ。

4月18日、逆風のトランプはついに市民の怒りを扇動する奇策に出た。「(封鎖された)都市を解放せよ!憲法修正第二条(武器保有権)を守れ!」と連続ツイートしたのだ。たちまち米国各地でロックダウンに対する抗議デモが発生。その中には顔を隠し武装した軍服姿の参加者もいたという。暴走するトランプ政権との終わりを感じさせる展開だ。

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プロフィール

かにせ・せいいち
蟹瀬誠一

国際ジャーナリスト
明治大学名誉教授
外交政策センター理事
(株)アバージェンス取締役
(株)ケイアソシエイツ副社長
SBI大学院大学学長

1950年石川県生まれ。上智大学文学部新聞学科卒業後、米AP通信社記者、仏AFP通信社記者、米TIME誌特派員を経て、91年にTBS『報道特集』キャスターとして日本のテレビ報道界に転身。東欧、ベトナム、ロシア情勢など海外ニュース中心に取材・リポート。国際政治・経済・文化に詳しい。 現在は『賢者の選択FUSION』(サンテレビ、BS-12)メインキャスター、『ニュースオプエド』編集主幹。カンボジアに小学校を建設するボランティア活動や環境NPO理事としても活躍。
2008年より2013年3月まで明治大学国際日本学部長。
2023年5月、SBI大学院大学学長に就任。
趣味は、読書、美術鑑賞、ゴルフ、テニス、スキューバ・ダイビングなど。

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