蟹瀬誠一コラム「世界の風を感じて」 kanise

ブレクジットとトランプの関係は?

2019/07/23

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「悪いニュースもいいニュースも俺にとってはいいニュースだ。」選挙期間中にそう豪語していたのは他ならぬトランプ米大統領だった。とにかくマスコミの注目を集めればオーケーなのである。「国へ帰れ」と非白人女性下院議員4人を激しく非難した最近のツィートもそうだ。たちまち大炎上。下院で自身の人種差別的発言を非難する決議案が可決されてもどこ吹く風で、再選のためならなんでもありなのだ。

一方、英国ではトランプ米大統領を「無能で軽薄」と酷評して辞任に追い込まれたキム・ダロック駐米英国大使の機密公電漏洩を巡って、名探偵シャーロック・ホームズ張りの「犯人」探しが始まっている。

ロンドン警視庁はすでに公職守秘法違反の疑いで捜査に乗り出し、リークした人物に名乗り出るよう呼びかけているが、犯罪者扱いされるのが分かっていて応じる者はいないだろう。

まず疑われるのは、国内の政府関係者と政治家だ。ポイントは漂流するイギリスのEU離脱問題だろう。混乱の責任をとって6月初めにメイ首相が保守党党首を辞任した後、熾烈な後継者争いを繰り広げているのはジェレミー・ハント外相とボリス・ジョンソン前外相のふたり。いまのところ突飛な言動で「イギリスのトランプ」として知られるジョンソン氏がブックメーカー(賭け屋)で一番人気だ。

ジョンソン氏はもともと離脱首謀者のひとりだが、ダロック前大使は親EU派だった。そこで離脱推進派を勢いづかせるためジョンソン氏が大使を交代させようと画策したというのが地元でよく聞かれる噂だ。だが、そんな単純な構造ではあるまい。

Dweller [CC BY-SA 3.0], via Wikimedia Commons

私が注目しているのは急進的離脱派のナイジェル・ファラージ氏だ。離脱派が多数を占める東部の都市ピーターバラで先月行われた下院補欠選挙では、同氏が率いる新党ブレグジット(英EU離脱)党が得票数で既存の保守党を上回った。危機感を持ったジョンソン陣営がファラージ氏に接近しても不思議はない。

ファラージ氏の背後には、2016年の国民投票で英国史上最大の800万ポンド(10億8千万円)もの政治資金を提供して離脱を後押しした英富豪のアーロン・バンクス氏がいる。だが、同氏にはその資金はロシアから違法に提供されたのではないかという疑惑が現在かけられており、国家犯罪対策庁(NCA)が捜査中だ。

バンク氏は疑惑を全面否定しているが、説得力は乏しい。なぜなら、ファラージ氏と共に設立した政治団体「リーブEU(EUを去れ)」は「移民流入は侵略だ」などソーシャルメディアを使って拡散した過激なメッセージの中にはなぜかロシアのプーチン大統領を賞賛する内容のものが含まれていたからだ。2016年米大統領選へのロシア介入と恐ろしいほど相似しているではないか。

ロシア人女性を妻にもつバンクス氏は広報担当者とともに国民投票の数ヶ月前に駐英ロシア大使や他の要人と頻繁に接触していたことも明らかになっている。さらには、16年11月にトランプの大統領当選を祝うためニューヨークのトランプ・タワーに駆けつけた最初の英国人も他ならぬバンクス氏だった。

「ブレグジットとトランプ氏の政治運動の裏には何らかの直接的繋がりがある」と保守党のダミアン・コリンズ議員は主張し、徹底した調査を求めている。

今月末に新首相が決まるが、その背後には情報戦略に長けた外国勢力の姿がちらついている。シャーロック・ホームズならさしずめこう言うに違いない。

「ワトソン君、これは事件だよ」

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プロフィール

かにせ・せいいち
蟹瀬誠一

国際ジャーナリスト
明治大学名誉教授
外交政策センター理事
(株)アバージェンス取締役
(株)ケイアソシエイツ副社長
SBI大学院大学学長

1950年石川県生まれ。上智大学文学部新聞学科卒業後、米AP通信社記者、仏AFP通信社記者、米TIME誌特派員を経て、91年にTBS『報道特集』キャスターとして日本のテレビ報道界に転身。東欧、ベトナム、ロシア情勢など海外ニュース中心に取材・リポート。国際政治・経済・文化に詳しい。 現在は『賢者の選択FUSION』(サンテレビ、BS-12)メインキャスター、『ニュースオプエド』編集主幹。カンボジアに小学校を建設するボランティア活動や環境NPO理事としても活躍。
2008年より2013年3月まで明治大学国際日本学部長。
2023年5月、SBI大学院大学学長に就任。
趣味は、読書、美術鑑賞、ゴルフ、テニス、スキューバ・ダイビングなど。

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